魔入りました!入間くん

□おかしな告白二つ
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「僕はこれから用事があるから、二人はここでゆっくり話していくといいよ」



 用事なんてないはずなのに、僕の姿をしたイルマくんは準備室を出ていく。
 彼女と二人きりなのは嬉しいけど、今のこの状況では喜べない。
 去り際に、イルマくんが彼女に「頑張ってね」と言った一言が聞こえてしまった。
 小さな声だったけど、確かに聞こえたその言葉。
 イルマくんはリタちゃんの気持ちに気づいていて、彼女に告白させようとしてるんだろうか。
 今の中身は僕なのに。

 こんな気持ちなんて最初からなければ、二人の恋を心から応援できた。
 だけど僕には無理だ。
 イルマくんに告白する君の姿なんて見たくない。



「バラム先生いたから緊張しちゃったよ」

「苦手な悪魔と顔合わさせてごめんね」



 気持ちを表情に出さないように気をつけながら言うと、リタちゃんは首を傾げる。
 なんでそんな反応をするのかわからない。
 まるで、怖くも苦手でもないみたいな反応だけど、もしそうなら、何で避けられているのかわからない。



「入間くんには話したでしょ。私がバラム先生の事を好きだって」



 突然の言葉に伏せていた顔を上げた。
 君の言う好きとはどんな意味で、それをイルマくんに話したってどういう事なんだろう。



「私がバラム先生を好きになった理由覚えてる?」



 知るはずがない。
 僕はそんな話聞いたことすらないんだから。
 ずっと嫌われてると思っていたんだ、僕が黙ることしかできずにいると、彼女は話し始める。
 僕との出会いから好きになった経緯を全て。



「それで気づいたら、もう好きになってた」



 こんなのまるで、リタちゃんが僕の事を好きみたいじゃないか。
 都合のいい解釈をしているだけかもしれないけど、君を誰にも取られたくなくて、椅子から立ち上がると彼女の前に立つ。
 こんなに近くで、それも同じ目線で合わせるのは初めてだ。



「僕は、リタちゃんが好きだ」



 自分の気持ちを真っ直ぐに伝える。
 たとえ教師と生徒、悪魔と人間だとしても、種族なんて関係ない。
 僕は君が好きなんだ。
 こんな気持ち、君がいなければ一生感じることはできなかった。
 なのに君は「その感情は恋じゃないよ」と僕の気持ちを否定する。
 だけどこれは紛れもなく恋なんだ。



「僕はこれを恋だと思ってる。リタちゃんの事がずっと好きだった」



 僕の言葉を聞くなりリタちゃんは準備室から逃げ出してしまう。
 引き留めようと声を掛けるけど、彼女は足を止めることはないまま走り去った。
 追いかけなくちゃと走ったとき、僕は階段から足を踏み外す。
 この体はイルマくんのなのに、僕は何をしてるんだと自分の愚かさを感じながら、今から来るであろう衝撃や痛みに瞼を閉じようとしたとき、誰かが僕の体を抱きしめそのまま落下した。

 閉じていた瞼を開けば、僕の上にイルマくんが乗っている。
 自分の手や脚を見れば元の姿に戻っていた。
 僕が落ちそうになったのを見て、イルマくんが庇ってくれたようだ。
 どういう原理かはわからないけど、元に戻れたことに安堵する。
 もう彼女に追いつくことは不可能だろうから、明日改めて話そうと決意し、僕の上で気を失ったままのイルマくんに声をかけた。


 翌日。
 リタちゃんの背が見え声をかけた。
 今までは嫌われてると思っていたから自分から声はかけなかったけど、そんな心配はもう必要ない。
 彼女は振り返り僕の名を呼んでくれる。
 顔を逸らしてしまったけど、昨日の言葉があるからもう引き下がらない。

 僕はリタちゃんを腕の中に閉じ込める。
 耳元で「好きだよ」の言葉を囁いたから驚かせちゃったみたい。
 彼女は昨日みたいにその場から逃げ出しちゃったけど、その顔が真っ赤に染まっていたのが嬉しい。

 僕は準備室へと戻り彼女を待つ。
 昨日の君の言葉は、もしかしたら僕とは違う好きかもしれない。
 それでも、期待するんだ。
 君が来てくれるって。
 根拠もない自信だったけど、ノックもせずに開かれた扉。
 ホームルームが始まるのに肩で息をするほど全力で走ってきた君を見て、僕は期待じゃなく確信をしてしまう。
 呼吸を整えた君が口にしたのは、さっきの言葉の意味。



「うん。先ずは昨日話せなかったことを説明するね。実は——」



 昨日の真実、入れ替わりのことを話せば、彼女は何とも言えない表情をしていたけど、これでわかったはずだよね。
 君が好きだと話した相手は僕本人だって。
 今度こそ逃げずに告白の返事を聞かせてほしい。

 君は顔を真っ赤にして、真っ直ぐに僕を見て口を開く。
 その返事は求め続けていたもので、気づけば君を抱きしめていた。
 先程より少し強く。



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