心霊探偵八雲短編集

□気まぐれな猫
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斉藤八雲に再会し、無理矢理同好会に入らされた翌日。


瑞季は『映画研究同好会』と書かれたプレートのある扉の前に立っていた。



本当に入っていいのだろうか…。



明日も来い、と言われたはいいものの、正直展開が早すぎて頭がついていかない。



それに自分の気持ちに気付いてしまったことで、八雲に会うのが素直に恥ずかしいということもある。



「どうしよう…」


と呟いた時。



「入るなら入ったらどうだ」



と中にいるであろう八雲の声がした。



「えっ」




どうして気付かれたのだろう。


扉はどう見ても開いていない。



「早く」



そう言われたら仕方がない。

入るしかなさそうだ。


「あの…失礼します…」


「ああ」



そう一言言うと、八雲は椅子に座りながら大きくあくびをした。



「あの…晴香先輩は…?」


「知らない。今日は来ないんじゃないか」



毎日毎日来られてはたまったもんじゃない、と言うと再び大きなあくびをする。



まるで猫のようだ。



晴香が来ないということは、瑞季は八雲と2人きりということになる。



「えっと…」



沈黙が気まずく、瑞季は必死に何か話題を探す。



「映画研究同好会って何をしてるんですか?」


「………」



再びの沈黙。



あ、あれ…私変なこと聞いたかな…。



不安になりつつある瑞季をチラッと八雲が見る。



「……何も」


「えっ」



何も?何もしてないということだろうか?



「誰かさん達がトラブルを持ち込んでこなければ平和に過ごせるんだ」



何かを思い出しているのか、八雲は顔をしかめながら頭をガリガリとかく。




誰かさん達?


頭にはてなを浮かべながら瑞季は八雲を見る。


ふっと八雲と目が合う。



わ…!

恥ずかしくなって瑞季は目をそらす。



沈黙の中で、瑞季の心臓の音がやけに大きく感じた。



き、聞こえてないかな…?



そう思い、チラッと八雲を見ると、八雲はまだ瑞季を見ていた。



「君は…」



八雲が何かを言いそうになった瞬間、ドアが勢いよく開いた。
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