CP1

□断片
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そんな皿なら割れてしまえば良い。
そんな考えが根付くようになったのは、遠野が現在のプレイスタイルに目覚めるきっかけを語ったことに端を発した。その情報は、いつもの如く君島の都合などお構い無しな遠野の一方的なお喋りの中に紛れていた。
処刑をテニスに取り入れようと決めたのは、過去に膝の皿を狙われたからだと遠野は語った。
攻撃は最大の防御だぜ。
そう言って得意気な笑みを向けた遠野を無表情で見つめ返し、無言で視線を外した。常に見られることを意識する仕事とは違って、テニスプレイヤーとしての君島育斗は愛想を振りまいたりはしなかった。ただ1人遠野に対してだけは心を鎮めて不愉快な感情を極力表さないための努力をしていた。遠野の気分を害さない為ではない。自分の表情筋が醜く歪むことに慣れてしまわない為だった。
今でこそ品性のない言動や表情までが気に障るが、嫌悪の根底を成すのはおよそ球技とは思えない対戦相手をいたぶって悦に入るプレイスタイルで、テニスプレイヤーとして遠野のような汚らわしい男が野放しになっているのは我慢ならないことだった。
そのスタイルに目覚めたそもそもの発端は身を守る為だったという。ならば守る意味を失くせばいい。


自分はただの影だと言ったのは誰だったか。
合宿に参加している中学生のデータを閲覧しながら、どこか他人事のように自分を突き動かしているものを不思議に思った。処刑技のやり過ぎで膝を壊したという本人の言を思えば、何も他人任せにリスクを犯すより遠野の膝に負担をかけるゲームメイクをしたほうが無難と言えた。
それでも影にはなれない。望むままに手を貸したりはしない。
陽のもとにいるべきは自分のほうだ。これ以上陰に押しやられるわけにはいかなかった。
君と同じだ。私も自分の力を存分に用いよう。


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