六月のサンドリヨン

□Red Beast
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 スティーブンさんの言うとり、そこまで悪くはなかった。

 
 この町も、生活も、トレーニングも。

 あまり認めたくないけど、スティーブンさん本人も。


 あの時以来、置いてきぼりはくらっていない。
僕があの後三日くらい、外出するたび指先が凍っていたのに、多分気づいたんだと思う。

 
 外出時は、一旦スティーブンさんに連絡を入れるか、一緒に行っている。

 常に監視されているよなもんだけど、僕はありがたかった。
何かに巻き込まれても、察知はしてくれる。

 きっと、すぐには来てくれないだろうけど。


 スティーブンさんは、目がいい。
耳もいい。
鼻も利く。
警察犬も真っ青だ。

 スティーブンさんに隠し事は、ほとんどできないという事も三日くらいでわかった。

 嘘をついても瞬時にばれた。
目が、すっと細くなったのを見てしまった時は、寿命が縮まるかと思った。


 僕は嘘をつくのはやめた。
隠し事も、しないことにした。
思ったことは素直に言うことにした。
もう少しオブラートに包めとは言われたけど、その方が気が楽だ。


 ただ、信用はしないことにした。


 ……ここでの生活に関するアドバイス以外は。


 戦い方については、
君は敵を翻弄しつつ隙を伺うのが一番安全で、性に合ってるはずだと言われた。
それと、まずはその冷却能力は一切使わないで肉体の性能を少しマシにしろとも言われた。 


 僕は毎日、H・Lのあらゆる所へ散歩という名目で連れていかれた。

 おおまかに、何処が危険か。
この界隈で一番近づいていけない場所は何処か。
建物特徴、路地の配置はどうか。
どこの食事がおいしいか。
そういったことを教えられた。

 地図はない。

 ここじゃ毎日の様に何もかも壊れて作り直されるから、そんなものは役に立たないらしい。

 とにかく、特徴を掴んで勘を研ぎ澄ませ。
とか、無茶苦茶な事をさらっと言う。

 置いてきぼりはなかったと言ったけど、何度か車で遠出した時に仕事の呼び出しを喰らって

『じゃあ、夕飯までに家まで帰ってこい。
 いいな。』

 と、突然道路に放り出せられたことはあった。

 それでも、あの時みたいに急に絶体絶命で一人という状況じゃなかったから、まだマシだ。
ちゃんと、どこどこの区画で事件が起こったから近づくなと、一声添えてくれた。

 それくらいで評価が上がるくらい、最初のスティーブンさんのあの仕打ちは、僕の中でちょっとしたトラウマになっている。


 一人で外出することも、増えた。
 
 
 動画サイトで見よう見まねで覚えた、パルクールだかストリートランニングだかわからないけど、そういうのを町を走りながら練習している。

 前よりは、高い塀を登れるようになった。
高い場所からも簡単に飛びおりれるし、壁に飛び移ることも出来るようになった。

 喧嘩は、全部逃げた。
完璧に撒いて、もっとヤバそうないかにも本業っぽそうな人たちに押し付けてやった。 

 そのくらいだ。


 つまり、どういうことかというと。


 僕はまだ、スティーブンさんの戦ってる姿を一度も見たことがない。
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