一般向けのおはなし
□ボクの兄が悪魔になった話
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「兄さん!」
あれ……誰を呼んでるんだっけ。
生憎と言っても良いがボク、トド松は末弟な為兄さんと呼べる人物が5人居る。
水面に写る姿の様にグニャグニャと不定形に揺れて視界は見辛い。
鼻の痛さといい、頬の感触といい、恐らくボクは泣いているんだろう。
何かを叫んで居るような気もするが、どうにも不明瞭で聞き取りづらい。
前を歩く男は確かにボクの兄さんだ。兄さん、なのに。
名前が思い出せない。分かって居るんだ、その後ろ姿が一番上の兄の物であるのは分かってるのに、
あれ……何松兄さんだっけ。
次男はカラ松兄さん
三男はチョロ松兄さん
四男は一松兄さん
五男は十四松兄さん
なのに、
一番上の兄の名が、すっぽりと抜け落ちてしまったかのように思い出せない。
分からないからこそ、赤子の様にひたすら兄さんと呼んで居るのに、目の前の兄さんはちょうど追い付けない所を歩くんだ。まるで嫌がらせの様に。
そして……ゆっくりと振り返った。
彼の癖である、鼻の下を擦りながら、歯を見せたカラッとした笑顔。
「おそ松……兄さん」
念願の名を呼べた時、霧が消える様に兄さんは跡形も無く消えた。