短編小説集
□赤羽業:スタイリスト
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赤羽業:スタイリスト
『うーん、何か…おかしい…もう一回…』
朝、少し早めに教室に来て、私は持ってきた手鏡とクシと髪ゴムで、左右の髪を編み込みにしてハーフアップにしようとしていた。
元々、器用ではない私だけれど、この髪型だけは諦めずに頑張ろうと決めていたのだ。
なぜなら…
好きな人が、好みの髪型だと言っていたのを聞いてしまったから…。
少しでも、彼の目に止まることが出来れば…。
そう思い、私は必死で思いを紡ぐように髪を編み込んでいく。
でも、何回やっても上手くいかない…。
そうやっている内に、教室にはクラスメイトが次々と登校してきて、
朝のHRの時間が迫っていた。
若干焦り始めた手に汗を感じる。
『ッッ……ダメだ…』
もう諦めて、いつもの髪型に戻そうとした時だった…
「やってあげるよ…。」
背後から掛かったその声に思わず身体が跳ねそうになる。
『か、カルマくんっ///』
頭上から見下ろされるように見つめられ固まっていると、両手で側頭部を掴まれ前を向かされた。
『な、なんで?!』
「名前さー…不器用すぎ。俺がやり方教えるよ。」
そう言うとカルマくんは、私にアドバイスをしながら、あっという間に私の髪を編み込んでハーフアップにしていく。
「はい、完成。どう?」
そう言うと彼は手鏡を私の顔の前に持ってくる。
完璧とも言える編み込みのハーフアップ…。
まさか、想い人に髪をセットしてもらうことになるなんて…。
『あ、ありがとう////
でも、ど、どうして……。』
自分の席に戻ろうとする彼はクルッと振り返った。
「好きな女のためなら、助けてあげたくなるのは当然でしょ?」
『……ぇっ///////』
ー数ヵ月後ー
『カルマー。髪の毛セットしてー?』
「はいはい。今日はどんな感じにするの?」
『えっとねー……』
恋人になった彼は、今日も私の髪を整えてくれています。