影の輪郭

□序章
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木々が生い茂り、山々に囲まれた土地。
陸路からこの場所に来るには、チゾットの山を越えるしかない。
ほぼ周りから隔絶されたこの土地に、グランバニアの城はそびえ立っていた。

交通の便は悪いが、城の中に街を組み込んだこの国は人と笑顔に溢れ活気があった。
争いは起きず、皆が手を取り助け合って生活をしていた。
子供たちは街中を駆け回り、買ったばかりの果物を落としそうになった母親に叱られている。
その光景を、豪快に笑いながら露店の店主は眺めていた。

2階に上がれば、もう国の上層部。目の前に会議室が現れる。
問題が起きた場合、対応策を協議するため設えた部屋だが、グランバニアは他国との争いはない。街の治安も良く、滅多なことがなければこの会議室は使われることはなかった。
側にはルイーダと呼ばれる女性が切り盛りする酒場があり、兵士たちがのんびりと昼間だというのに酒を飲んでいた。ある者は仲間と談笑し、ある者は魅惑的なルイーダに鼻の下を伸ばし、ある者はこの国の王について語らっていた。

「しかし、パパス様は本当に素晴らしい方だ。腕っぷしもさることながら、国の者たちを常に考えていてくださるその優しさ。あのようなお方が王でいてくださるのだから、我々は本当に幸せ者だな!」

「まったくだ!だが、パパス様が娶られたマーサ様も類まれなる美しさをお持ちだ!それでいて、とても良く気の付く方でもある。我々、下々の者にも分け隔てなく接してくださるし、なんと魔物にも好かれるというではないか!たしかに、あの方に見つめられると、なんだかとても安心するし、平和な気分になり、争うことなど忘れてしまいそうになるしな」

「なるほど、よくわかるぞ。俺もあんなに美人の嫁がほしいと何度思ったことか!おっと、この事は女房には言わないでくれよ?」

「はっはっは!わかっているさ!だがなぁ、マーサ様は大変パパス様を愛しておられる。もちろん、逆も然りだ。あのお2人を見ているだけで、俺は満足だよ」

「それもそうだな」

兵士2人は一度グイッと酒をあおると、天井を見上げた。

「だが、さしものパパス様も今回ばかりはうろたえていらっしゃるだろうなぁ…ククク…」

「あぁ。こればっかりは、男は何もできやしないからな…」

3階には玉座の間がある。
その方角を見つめながら2人はもう一度笑い、祈りや祝いの意味をこめてグラスをぶつけ合った。










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