素敵帽子の姉さんは…
□弐話
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結局、中也にエリス嬢と買い物に行くよう伝えることが、今日の私の唯一の仕事ということになった。
首領の部屋を後にし、エレベーターに乗りながら中也へメールを送る。
送信ボタンを押したところで、エレベーターのドアが開き始める。
だんだんと開いていくドアの向こうに、逢いたかった人物の姿が見えた。
彼は私と目が合うと、軽く右手をあげた。
そんな彼の元に、私は小走りで近づいた。
「やあ、姐御。お帰り。」
「ただいま、治っ!首領に用事?」
「いいや。姐御が私に会いたがっているんじゃないかと思ってね。ここで姐御を待っていたのだよ。」
「別に逢いたいとか思ってないよーだ。あ、そうそう。私たち、よっぽどのことが無い限り、今日は仕事無いから。」
「エリス嬢?」
「そう。」
今、話している相手は太宰治。
ポートマフィアの幹部の一人にして、中也の相棒であり天敵。
そして私の愛しい人。
片思いだけど。
「ふーん。休みか。」
つまらなそうにそう言った治に、何も無ければね、と訂正した。
「じゃあさ、アレ、やろうよ。」
ニヤリと笑ってそう言った治に、私も同じように笑っていいよと返した。
「何戦目だっけ?」
「やだなあ姐御。これで記念すべき百戦目じゃないか。」
「そうだったね。」
私たちの言うアレ。
それは、治のする拷問に私がどこまで耐えられるかを試す遊戯ゲエムのことだ。
拷問と言っても敵に行うのとは違って、延々とくすぐられるとかの類だが。
今のところ戦績は互角。
ルールは簡単。
時間を決めて、それまでに私が降参したら治の勝ち
時間まで持ち堪えたら私の勝ち。
仕事が入ったりして中断すれば引き分けだ。
「じゃあ、今日は日暮れ迄にしようか。」
「うん。」
いつも遊戯に使っている部屋に着き、今日のルールを決める。
「せっかくだし、今日は負けた方が夕飯をご馳走するっていうのはどう?」
「いいねえ。じゃあ、姐御に白状して貰うことは…そうだねえ。」
そう言いながら、治は後ろ手にドアを閉めた。
「姐御の好きな人、なんてどう?」
遊戯は始まった。
「いや、そんなのいないよ?」
と言ってみるも、
「最近の姐御を見ていれば、それが嘘だってすぐに分かるよ。」
と一蹴された。
今日は日暮れまでこの問答が続く。