いちご牛乳の君
□7パック目
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あれから午後の授業も終わり、家に帰った。
曲を仕上げようとPCの電源を入れると、メールが着ていた。
ツキノ芸能プロダクションからで…
「え?」
メールを読んで、辛うじて出たのはそんな声だった。
メールの内容が、仕事の依頼、つまりグラビとプロセラの曲を作ってほしいというものだったからだ。
詳細は後程と書いてあったけれども…。
この依頼を受けたとして、私が作った曲だと涙や葵君や卯月君を贔屓しかねない。
それはあまりよろしくないだろう。
断ろうか。でも、せっかく夢が叶うチャンスなのに…。
思考が堂々巡りを始めたので、気分転換にと宿題を広げた。
が、手につかない。
そうこうしているうちに、亜紀姉が帰ってきた音がした。
一時間くらいして、ご飯の用意ができたと告げられてリビングに降りた。
「綾、何かあった?」
食べ始めてからしばらくして、亜紀姉にそう訊かれた。
さすが、亜紀姉は私のことをよく見ている。
「うん、実は…。」
私はメールのことを話した。
「涙たちを贔屓しそうだから、辞めようと思ってる。それに…。」
「それに?」
「卯月君のこと好きって気持ちが曲に出そうだから、それも良くないだろうし。いろんな意味で。」
「ほう…。ついに自覚したか。」
茶化されることを覚悟していたけれど、そんなことはなかった。
「いーんじゃない?」
「え、そんな簡単に言うけど…。」
「大昔の作曲家が作った曲だって、友人や想い人に向けて作ったものもあるんだし、小夜曲セレナーデなんて愛の曲だよ?そういう気持ちをもって曲を作ることも大事なんじゃない?それに、気になるなら他の九人とも仲良くなっていけばいいだけじゃん?」
「また簡単に言う…。でも、そうだね。ありがと、亜紀姉!」
「どーいたしまして。ていうか、妹が悩んでるんだから、お姉ちゃんが相談に乗るのは当たり前でしょ?」
亜紀姉は、私のことを妹みたいだって言うし、私も亜紀姉のことをお姉ちゃんだと思っている。
普段はからかってきたりするけど、こういう時には背中を押してくれる、自慢のお姉ちゃんだ。
そして、晩御飯を食べ終えて一息ついた頃、私のケータイが着信音を奏でた。
もちろん、ツキノ芸能プロダクションからだ。