いちご牛乳の君

□2パック目
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「ありがとうございましたー。」

音楽の授業が終わり、みんなは教室に帰り始める。
残って亜紀姉に文句を言ってやろうと思ったが、またもやクラスメートに囲まれ、一緒に帰ろうと言われて、不可能なこととなった。
家に帰ったら絶対に一言、言ってやる!


そう心に誓い、クラスメートと話しながら帰る。

「香月さん、ピアノめっちゃ上手いね!すごい!てか、綾ちゃんって呼んでいい?」
「ありがとう。いいよ。」
「じゃ、私のことも名前で呼んでね。」
「うん。」
「あ、ずるーい。私も綾って呼ぶー。ね、いいでしょ?」
「うん。」
「やったー!」



教室に戻ると、今度は皐月君に話しかけられた。

「香月さんってさ、鈴木先生と知り合いなの?」
「何で?」
「先生、香月さんがピアノを弾くこと知ってたから。それに、他の生徒を見る時と何かが違ったっていうか…」

ふむ。
なかなか鋭い。
まあ、あれじゃバレてもしょうがないか。
といっても、隠しているとかじゃないんだけれども。

「うん。知り合いっていうか、あの人は私の従姉なんだよね。」
「そうなんだ!だからか。」
「この四月から同居してるの。」
「へえ。あ、そうだ。香月さんって、どんな音楽聴くの?」

唐突ですね、皐月君。

「え?…えーっと卯月君とか皐月君とか…要するにグラビとかプロセラとかかな。あはは。」

素直に卯月君のファンだとも言えず、なぜかごまかした私。
当の卯月君は自分の席で寝てる。

まあ、ファンと言ってもガチ勢みたいにグッズ持ってたりポスター持ってたりするわけじゃないけどね。
ライブ…は涙に誘われて時々行くか。

「そっか。俺たちの曲聴いてくれてるんだー。なんか意外。ありがとう!でも、ちょっと恥ずかしいな。」

なんて照れ交じりに王子スマイルで言う皐月君はカッコ可愛いです。

「そういう皐月君はどんな曲を聴くの?」

と、逆に訊いてみました。


「俺は好きな作曲家がいてね。ルナPって言って、ボカロでの作曲が主なんだけど、最近は歌手の曲を作ることもあるんだ。で、その人の作った曲を聴いてる。」

と、ルナP、つまり私のことを幸せそうに語り始めた皐月君。
予想外の返答だった。

「なんか意外。」

辛うじてそうコメントする。

「いつかルナPが作った曲を歌うのが夢なんだ。」

奇遇ですね。
私もグラビ(卯月君)に自分が作った曲を歌ってもらうのが夢です。


なんとなく自分がルナだと名乗る気になれないまま、放課後になった。


このまま黙っているのは、なんだか良心が痛む。
けど、なんとなく言い辛い。


そんなことを考えながら家路を歩いていると、電話がかかってきた。

確認すると涙からだった。

「もしもし。」
『あ、綾姉。』
「どうしたの、涙?」
『明日、綾姉の家に行きたい。」
「分かった。亜紀姉にも伝えておくね。場所は…」
『分かる。』
「そだね。じゃあ、放課後待ってるから。」
『うん。じゃあ、また明日。』

明日、涙が家に来るらしい。
お菓子でも作るか。



皐月君への罪悪感と涙が来るという喜びで、亜紀姉のことはどうでもよくなっていた。
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