ゲーム沿い

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ミアレシティまで戻る前にコボクタウンに立ち寄りポケモンセンターに駆け込んだ。ひどく焦っていたわたしを見たジョーイさんは何度も「キルリアなら大丈夫。すぐに元気になるわ」と優しく声をかけてくれた。

待合室でキルリアの回復を待ち、その間も何度も先ほど自分が起こしたことに後悔した。
もっとやりようがあったのではと、でももう過ぎてしまったことは戻ってこない。

回復が終わり元気になったキルリアを抱きしめてジョーイさんにお礼を言ってポケモンセンターを後にした。

ミアレシティに戻ったものの研究室に足が向かなかった。カルムくんの友達に会うことを前日の夜に喜んでくれていたプラターヌ博士。
きっと彼の前にこんなひどい顔をした自分が現れたら心配させてしまう。そんなことをしたくない。
自然と研究室から足が遠のき目的もなくとぼとぼ歩いているとふわりと甘くていい匂いがした。
どうやら人はこんなに落ち込んでいても空腹には勝てないらしい。バトルシャトーの後に昼食をとる予定だったと思い出しつつも、くぅっとなった音はいよいよ足元を頼りなくした。
とりあえず何か食べようとガレットを売っているお店に足を向けた。

「いらっしゃいませ。ご注文を伺います」

はきはきと聞き取りやすい声で並べられた言葉にカラフルなメニューに目を落とす。

モーモーミルクのクリームをふんだんに使ったガレットや、きのみを挟んだもの。中にはレタスやベーコン、目玉焼きが挟まったものまでスイーツのような甘いものからおかずのようなしっかりとしたものまで取り揃えられ、悩んだ挙句。
数量限定で販売されていたモモンのみとオレンのみを使った甘いガレットを頼むことにした。

生地が広げられ鮮やかな手つきで仕上げられていく光景を見ていると「すみません!」と焦った声でかけてきた人がいた。

視界の端に黒のコートが靡いたのが見えついっと視線を向ける。
そこにいたのは黒を身にまとう女性だった。すっと背筋が伸びた立ち姿が美しい、帽子から靴まで黒に染まったその人はずれたサングラスをくいっと直し、一度深呼吸をして告げる。

「数量限定のモモンのみとオレンのみのガレットをください」

まったく同じものを頼んだことに内心驚きつつ、店員さんは作っていた手を止めて申し訳なさそうな声音で言った。

「すみません。たった今売り切れになってしまって、そちらのお客様が頼まれたもので今日の分は終わりなんです」

え…うそ。
事実が分かった途端「そんな…」とがくりと肩を落とした姿を見てしまえば居た堪れなくなる。
どうしましょうと目じりを下げた店員さんもいて…しょうがないかとあることを決めた。

「あの、よければお譲りしましょうか」

「いいの!」

ばっとこちらに詰め寄られサングラスの奥の瞳とばちっと合う。「いいんですか?」という疑問形を一切口にしないところを見るとよほど食べたかったのだろう。

「はい、わたしは何でもよかったので。代わりにオボンのみとモーモーミルクのクリームを使ったガレットを一つお願いします」


少しして二つの商品が手に渡り。どうぞと置かれた手拭きを一つ手に取ってその場を離れようとしたとき、ぐいっと手を取られ「待って」と引き止められる。

「せっかく譲ってもらったのに。せめて飲み物くらいは奢らせて。ね」

下げられたサングラスの向こう。黒の色越しに見ていた瞳がその姿を現した。灰色の双眸が光が差し込むと銀色に変わる。不思議な瞳を持った人は女優みたいに綺麗だった。

「それにこれも何かの縁だもの。良かったら一緒に食べない?」

強く握られた手は逃げることを許さないと暗示しているように思えた。

「それにそんなに悲しそうにしているのが気になっちゃって、ダメね。おせっかいなところは直さなきゃって思ってるんだけど」

立ちすくんだわたしはそのまましゃがみ込んでしまいそうになった。膝に力がうまく入らなくなりそうでそれが分かったのかそっと距離を詰め肩を寄りかからせることを許してくれた。

人に移した重さの分、何とかへたり込まずに済んだわたしを刺激しないようにソプラノの声が歌うように囁きかけてくる。

「あらあら、大丈夫よ。大丈夫」

ぽんぽんと肩を撫でるように叩かれ。それは魔法のようにしみ込んでくる。漸く足元がしっかりしてくるのを待って「もう、大丈夫です」と言えば。

「良かった。じゃあ行きましょうか」

手を取られ歩き出す。

戸惑いはなかった。手を包んだ温かさが心地よくて、この場にいたくないと、どこに行けばいいんだろと迷っていたから。

ただ引かれる力に身を任せている間は心が軽かった。


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