short story

□じわり(カルム)
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「テールナー、サイコショック」

「るぅな!」




避けきれない距離から放たれた礫がゲッコウガを襲う。顔をかばうように腕をクロスさせ勢いを殺すためにしたであろう態勢を壊し

ふわりと体が浮くのが見えた時にはフィールドの外に、砂埃を巻き上げてその体は飛ばされていた







***




「はぁ、相性はこっちのほうが有利なのになんでだろ」

カフェのテラスで向かい合うように座ったカルムくんの表情は先ほどのバトルを思い出しているからなのか冴えない

背中が少し丸まっていて、肩を落としている



「ゲッコウガがすごく強くなっててびっくりしたよ。ひやりとしちゃった」


膝の上に乗るカルムくんのブースターのブラッシングを終わらせて、鞄からごそごそと日記帳を出す

お気に入りのペンでさっきしたバトルの内容を書き綴っているとじっと見つめる視線に顔を上げた



「…どうか、した?」

合わさった視線がゆるりと優しくなる。唇が、こうを描いた


「いや、俺がおとなりさんに勝てないのはこういうところから来てるのかなって」




ふっとさげられた視線を追うと手元に広げられた書きかけの日記帳にいきついた



「カルムくんだって、色々対策を立ててるの知ってるよ

…わたしとバトルをするために特訓してくれてるの。すごく、嬉しい」


共に高め合うライバルがいるという事はとても贅沢で幸せなことだといつも感じていられる


投げられた言葉のキャッチボールをふわりと返せば白い肌がほんのり赤く染まって視線がさ迷っているカルムくんがいてびっくりしてしまった


「…っ、ほんと、おとなりさんは…はぁ…」


たどたどしい言葉とまだ、何かを紡ごうとパクパクと唇を動かして



がたりと、イスから立ち上がる音に膝に座るブースターがびくりと驚いた




「飲み物、奢るよ。何がいい」

「え、大丈夫だよ。飲み物なら自分で…」



言い切る前に


「バトルをしてほしいって言ったのは俺だから
そのお礼だと思ってくれればいいよ」

「でも…」

「でもじゃない、遠慮しなくていいから」


ここまで言われてしまったら断ることが出来なくて、メニューにあったアイスコーヒーを頼んだ



「分かった、おとなりさんはそのままでいいから」

カウンターのほうに注文をしに行くカルムくんの後姿を見て、膝の上に座るブースターを撫ぜた


「あなたのご主人様は…とても、優しいのね」

ブースターも可愛らしく肯定するように鳴いた





ほんとうはこうやってブースターのブラッシングができるだけでわたしにとってはご褒美みたいなものなのに…

腕に触れるやわらかくて温かい感触。テールナーとは違う抱きしめられてしまう温もりに
知らないうちに頬がゆるんだ




「かわいい…」

降ってきた言葉にはっとして声の主を探せば
そこに立っていたのはカルムくんだった


"かわいい"
それは腕の中で微笑むブースターに言ったのかもしれない。でも、それを自分の中で整理しきれなくて…


体が熱を持ったみたいに熱くなっていく



「あっ…えっと」

「…」


お互いに言葉という言葉を言えないで




わたしはカルムくんの手に持たれていた二つのアイスコーヒーのうち片方を「あ、ありがとう」と、蚊の鳴くような小さな声で言って熱を持った体を冷やすようにストローに口をつけてこくりと飲み込んだ

すっと冷たさが身体を通って熱が引いて少し冷静になったわたしは立ち尽くしているカルムくんに「カルムくんも座ったら」と声をかけようと決めて視線を戻せば



その顔は先ほどと同様に赤くなっていて


「どうか…したの」

というよりも早く

「それ、俺が少し飲んだんだけど…」




恥ずかしそうに呟いた。拾い上げた言葉を自分の中で反芻してそれを飲み込むまでに時間がかかった

手に持つグラスに目を向けて、カルムくんの言葉がよみがえって

…間接キス



理解したとたん冷えた体に熱が戻ってきた

飲み込みきれないそれが溢れて熱とともに広がって、腕の中にいるブースターの温かさではない熱が

じわりと、にじんだ

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