short story
□映しこめた炎(カキ)
1ページ/1ページ
その炎はまるで、このアローラ地方の大自然を溶かしたかのような青々とした緑色だった
なんて綺麗なんだろうと今まで見たことがない美しさに目を奪われた
「ただの練習を見ていて楽しいですか?」
ピタリと練習する手を止めてこちらを見つめる瞳
きっとその瞳にはポカンとした間抜けなわたしが写っていたのだろうか小さな笑みが零れ何も答えられないでいるわたしに「突然すみません」といった
「いえ、あの…面白いというか、魅入ってしまうくらい素敵でした」
まだ島巡りをしていた頃、カキさんの試練に挑戦した時に目にしたガラガラの灯す炎が忘れられなかった
試練というフィルター越しに見ていたわたしは純粋にその踊りを楽しむことなんて出来ずただただその踊りを目で追うのに精一杯だった
終わってからの旅でもふとした拍子に思い出される炎の色、人とポケモンが作り出す踊りはちゃんと見たことはないけれどきっととても素敵なものに思えて何度も見に行こうとしたけど行けなかった
コスモッグのことスカル団のこと、増えていく問題に強くならなければという思いが膨らんでいくのに伴って心に余裕がなくなっていてこんな不安ばかりを抱えたまま見たら失礼だと、もう少し落ち着いてからゆっくりと見にこれば心から楽しめるはずだと旅の後の自分へのご褒美としてとっておいたんだ
しなやかな中にある力強さを感じさせる踊りは思っていた通り素晴らしかった
わたしはきっと完璧に作り上げられた本番よりもこういった練習風景のほうが好きだと言える。だってやり直すたびに上手くなっていって一緒に踊るガラガラ達との何気ないやり取りが魅力的に見えた
変化を見れるのもとても楽しい
「そう言ってもらえると嬉しいです。やっと見てもらえたのが練習するところというのは少し残念ですが」
「…やっと?」
確かに見られる日が早く来てほしいと思ってはいたがこのことを他人に話したことはない。自分の中だけで秘めていた想いなのだから
「何度かこの火山の上を通りかかった所を見たんです。やっと来てくれましたね」
「見てたんですか…」
「はい、誰なのか確認したのは一回なんですがリザードンの影が通るたびにナマエさんが通ってるんだなって」
恥ずかしい…自分が気づいていないだけで見られている方は知っていたなんて
こうして実際に訪れるまで長い時間を要した。その間、わたしの行動を知っていたのだ
「決して覗き見ていてわけじゃないんです。その…なかなか時間がなくて」
「そうでしょうね。あなたはもうこの地方のチャンピオンなんですから…でも、見に来てくれてオレはすごく嬉しかったです
また見に来てくれますか?」
「いいんですか」
「もちろん。その時はのあなたのために踊りたい」
「…!」
「祈りや感謝の為ではなくこんなにも踊りを好きでいてくれるナマエさんのために…だから次来てくれる日を楽しみにしています」
思ってもいなかった言葉に驚いた。けれど、ゆっくりと時間をかけて飲み込んだ言葉に幸福に満たされて頷いていた