short story
□秘密を解く(ヒカリ)
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※「甘いカケラを飲み込んで」の別視点
「ありがとうナマエ。助かっちゃった」
チョコレートが入った袋はさっき、悩みに悩み抜いて買ったばかりのものだ
「ううん。わたしは何もしてないよ」
そう言うけどあたしとしてはすごく助かった。悩んでいるあたしにさりげなく「甘いものは大丈夫?」や「どんな味が好みなの」とアドバイスをしてくれたり一人では絶対に決められなかったのをナマエがいたから買うことが出来たようなものだ
ナマエは大好きな親友でいつだって控えめでそっと見守っていてくれるような曇を知らない透明なガラスみたいな女の子。すごく努力家な所とか人のことを悪く言わない子でこんな出来た子がモテないはずがなく告白されるたびに「もったいないよね。こんなわたしに」と断ってしまった罪悪感に悲しそうな顔をする
そんな親友のことを好きだと言ったのは幼馴染のコウキだった。そのことを打ち明けられた時は驚いた。でも好きになった理由を聞いているうちに共感してしまって最後には「少しくらいなら協力してあげる」なんて幼馴染の好で言ってしまった
そう、コウキは決して悪い人ではない。昔から温厚で争い事とかは避けて通るのが得意なのか人に悪い印象を与えないそんな幼馴染
まずは少しでも距離を近づけようということで先生からよく頼みごとをされている事を知っていたあたしは手伝ってあげたらどうかということから始まり読書が好きなナマエの好みなどを教えてあげて、コウキもそれを読むようになったり
小さな積み重ねが功を奏し今では普通に手伝いという名目上うまく二人きりになれたり本の貸し借りもするようになった
周りからもちらほらと「あの二人って付き合ってるのかな」的な噂が出ていたりこのままいけば二人はいい感じのところまでいけるのではないかと…と思っていた矢先にあたしはやってしまった
友チョコとしてくれた袋が入っていた紙袋の中にもう一つチョコが入っていることに気が付いてしまった…それがいけなかった
「コウキにあげるの?」だったり「二人ともすごくお似合いだよ」なんてバレンタインというイベントでふわふわしていたあたしの思考はうまく回り切らず落としてはいけない爆弾を投下してしまった
当然そんなことを急に言えばナマエも疑問に思って聞いてくる。何も言えなくなったあたしは苦し紛れにコウキの事をぶわっと喋って走り去ってしまった…何をやっているんだあたしは
その日の夜、コウキに「ごめんね。印象を悪くしちゃったかもしれない」とメールをしたら「大丈夫だよ。ヒカリのおかげで仲良くなれたんだしそう思われたのならボクはナマエさんの中ではその程度だったんだよ。メールありがとう」とスマートにカッコいい文面を返してくるコウキに心が少し軽くなった
次の日の朝、登校中にナマエにも謝られてなんでこんなにも優しい人たちばかりに囲まれているんだろうと自分のいる環境の良さを改めて実感した。そして放課後、笑顔で見送ってくれたナマエと別れてジュンとの待ち合わせの場所に行く途中コウキと廊下ですれ違った。目が合ってあたしは「頑張れっ」と言えばコウキは何のことだか分からないなんて顔をしていたが上手くいくといいと思いつつこの後自分も渡さなければいけない事への緊張を抱え、でも足取りは軽かった
◇ ◇ ◇
「…ナマエ、どうかしたの?」
「…う、ん」
二人で登校中、門で偶然出くわしたコウキを見た途端、頬を染めてあたしの後ろに隠れてしまった
ひょこっと小動物のように顔をのぞかせる仕草に頬がゆるみそうになったが
「ねぇ、コウキ…ナマエに何したの」
こんな表情をさせるのを見て昨日何があったのかすごく気になった。でも、こちらもギクリとするだけで視線をあたしと合わせようとしない
後から問いただせばチョコを貰えた嬉しさと不意の笑顔が可愛くてキスしてしまったなんて説明されればあたしも早とちりだけどコウキ、あなたも随分早とちりだねと内心思った
口に出さなかっただけ成長だと思うの