short story
□ココロからのエールを(チェレン)
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「ほんとうに、比べてるわけじゃないんだよ。ただ、少し羨ましく思えてきたんだ」
「…羨ましい?」
そう、と頷いた
「旅を始めたばかりの頃はポケモンを捕まえることからバトルのことまで頭で理解するよりも、むちゃくちゃでもいいから実践で…みたいな感じだった
ベルっていう子なんだけど、本当にあきれたを通り越して大丈夫かって心配になったよ
…でも」
でも、と区切られて一つふぅっと吐き出された空気
「ベルは驚くくらい成長が速かったよ。少し見ないうちに手持ちも一体から三体に増えてて苦手なバトルも前よりもずっと上達してた
本人はただ大好きなポケモンと共に時間を過ごせるだけで幸せそうに笑ってた
ポケモンのやり取りを見ているだけでお互いが通じてるみたいで戦っているポケモンよりも熱くなって、声を張り上げて応援してたよ」
くすりと笑ったのは思い出し笑いなのだろう
そんなにベルさんという人のことに詳しいのはきっと仲が良かったから
旅の中で何度も顔を合わせて同じ時期にジムもバトルもしたような口ぶりだった
「だからベルみたいにお互いがもっと分かり合えるくらいポケモンとの絆を深め合えたら、ナマエちゃんとマイナンみたいになれたら
もっとナマエちゃんにだっていいアドバイスができると思うんだけど…難しいね」
下がっていく視線にとっさに口を開こうとして、出来なかった
チェレンさんにだって深い絆があります
特別だよ、と旅をしていた当時からのパートナー。ジャローダをはじめ手持ちのポケモンを見せてもらったことがある
特に最初から旅を共にしてきたジャローダは凛々しくて綺麗で甘えるようにすり寄る姿は確かな信頼を見ているだけなのに感じさせられた
でもわたしはただの新人トレーナーで
ジムリーダーであるチェレンさんに何を言っていいのか。何を求めているのかなんて分かるはずがない
憂いを帯びる表情を晴れさせてあげることが出来る言葉を持たないわたしは黙っていることしかできなかった
◇ ◇ ◇
その日の夜。ポケモンセンターで一人部屋を借りて考え事をしていた
内容はチェレンさんのことと…少しだけベルさんのことも
「…どうしたらいいと思う。マイナン」
ブラッシングのためちょこんと膝の上に座って気持ちよさそうに目を細めていたマイナンが振り返る
ホウエン地方で初めてできたわたしの大切なパートナーだ
花屋をしていたわたしの家
ある日、近くの草むらで傷ついているこの子を見つけて手当をするために家に連れて帰ったのが始まりだった
この子は優しくて、素直で、勇敢だ
わたしよりもずっと小さな体なのに今も苦手な雷で怯えていると手を握って笑ってくれる
自分も怖いはずなのに、握られた手から伝わってくるかすかな震えを押し込めて無邪気に、明るく、安心させるために笑ってくれた
ポケモントレーナーになって生まれたホウエン地方ではない知らない地方で旅を始めるということ
踏み出した不安とワクワクを共有して一緒に同じ時間を過ごしてきた
「あの人の力になってあげたいの。…でも、わたしの拙い言葉じゃ力になれないのかな
こんなわたしなんかの言葉じゃ…ダメなのかな」
"チェレンさんにだって深い絆があります"
飲み込んだ言葉を口にしていたらどうなっていたのだろう
もっとあの表情を曇らせてしまっただろうか