short story
□ココロからのエールを(チェレン)
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※とある新人トレーナーとジムリーダーになったチェレン
「…ありがとうございました」
その声は少し暗い
バトルフィールド、土埃がさわりと音を立てる
目の前に横たわる小さな体をそっと抱き寄せて体に付いた土を払った
そして、頑張ってくれたあなたに
「マイナン、ありがとう」
そっと頭を撫ぜると悲しそうな声で、揺れる瞳を向けて
「まぁい…」
ごめんね、と言ってくる
あなたは何も悪くないんだよ。ちゃんとあなたにあった指示を出せなかったわたしが悪いんだから
そう思い、そっと心の奥に言葉を飲み込む
この子は優しいからわたしがそう口にすれば、また謝ってくるだろう
だから、何も言わずにぎゅっと抱きしめた
ふと視界に黒い影が重なって顔を上げると
「いい勝負だったよ。もう少しだったね」
伸ばされた白い手に
「そうですね…次こそ絶対に勝ちますから」
何度目か分からないそのセリフ。でも、チェレンさんはいつだって
「そうだね、僕もうかうかしていられないな」
決して上から目線ではなく穏やかで、優しい言葉
差し出された手を握って腰を上げる
その頃のはもう暗かった気持ちを切り替えていた
「今日も、反省会に付き合ってもらっても…いいですか」
「もちろんだよ。僕でよければ」
反省会という名の作戦会議
ダメだった部分を聞いてこの時はこうすればよかったとか、次に繋げるための案を出し合って
「…そっか、ここはこうすればよかったんですね」
忘れないように旅に出た時から使っている菫色の日記帳にメモをする。日記帳といっても書き込む内容はバトルのこととか、技のタイミングとかポケモン同士の相性といったものでページをペラペラめくっても日記らしいことは何一つ書かれていない
たくさん書き込んで、付箋がたくさん張られた日記帳は膨らんでいてお世辞にも可愛らしいスマートな日記帳ではなくなっていた
残りのページもあと少し
もうすぐ新しいものを買わなくてはと思いぱたんと閉じる
「ナマエちゃんは真面目だから、きっとすぐに僕なんか通り越していけるよ」
まるで勝てるのはもうすぐだよと言われたようだった
「そう、ですか?」
この時そう聞かなければよかったと後悔した
「うん、ナマエちゃんを見てるとあの子を見ているみたいに思える時があるんだ」
"あの子"そう言った形の良い唇がほころぶ
そしてチクッと針で刺されたような痛み
ここにはいないその子を懐かしむかのような眼差し。その表情が普段のジムリーダーとして見せるキリッとしたものではなくて、親しい人にしか見せないであろう素のものだと分かった瞬間
また、チクッと痛んだ
「あっ…ごめんね。人と比べられるなんて嫌だったよね
そんな顔をしてほしかったわけじゃないんだ」
ぽんぽんっと宥めるようなことをすらりとやってしまうのはきっとわたしが幼くて、トレーナーの一人だと思われているから
ジムリーダーと教えを乞う一人の少女
この先その壁を超えることはできないかもしれない