short story

□微睡に委ねる(ダイゴ)
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※ホウエン地方のチャンピオンになってから




「…また、だめだった」



ガクリと先ほどのバトルを思い出し二人掛けのソファーの上、身体を丸めるように座っていたわたしはより一層その体を抱え込む




くしゃりと前髪が膝にこすれる音の後、誰にも聞こえないように小さく、はぁっと溜息をついた


脳裏に浮かぶのはつい先ほどまで行われていたバトル。バトルに負けたわけではない

手持ちは残り3体を残すという。いつもより比較的短時間で終わったバトルだった



チャレンジャーの敗北が決まり、とぼとぼと出ていこうとする男の子のトレーナーに



「あの…」



呼びかけたのだ。そこから、今回のバトルのアドバイスをして次にぜひまた挑戦をしてほしいという想いを伝えようと唇に声を乗せようとして掠れた言葉しか出てこなかった結果…



「…また、挑戦してください」






思っていたことの半分も言えずに終わってしまった。唯一の救いといえばそのトレーナーがやわらかくでも、先ほどの勝負のせいか哀しみをたたえた瞳で


「ありがとうございます。次こそ絶対に勝って見せますから」


そう言い残して去っていった




ーもう少し、メンバーのバランスを整えたほうがいいかもしれない

ーポケモンたちの動きはみんな良かったからその部分をもっと伸ばしてあげればいいかもしれない


言いたいことはあるのにもう自覚してしまっている人との会話を苦手とする欠点がここにきて、いや、ここにいるからこそ嫌というほどその場面を潰してきたのだから心の中で何度も言い返して気合も入れなおし。よし今日こそはと、始まるのはいいけれど結果はこのありさまだ





「もう…チャンピオンなのに」


挑んできてくれるトレーナーはみんな強い。もっともっと強くなれる可能性をみんな秘めている

だから、少しでも、チャンピオンとしてトレーナーの一人として頑張っている人にアドバイスの一つでもできたら…


というのが今のところの目標



フヨウには「ナマエは充分頑張ってるよ。挑戦者に対する態度も丁寧だし、バトルの中で気づかされるトレーナー多いと思うんだけどなぁ」と励ましの言葉を貰うものの



「わたしはずっと…弱いまま」



あの日、ダイゴさんと戦って
勝って、おめでとうと言ってもらって


大好きなその笑みと、抱きしめてくれた温かさ


わたしよりずっと大人で、アドバイスもスラスラできてチャンピオンという言葉がぴったりのダイゴさん


あなたに変わってチャンピオンになったあの日からたくさんのトレーナーと戦って、あの時よりポケモンたちはずっと強くなってくれたのに、わたしの事を変わらずに大切に思ってくれて力を貸してくれるのに





わたしは何も変われないまま

そのことが苦しくて、辛くて、心にうずまく真っ黒なもやもやとした気持ちがこみ上げてくる。もっとちゃんとしなくちゃと思うたびにそうなれない現実が突きつけられて、どうしていいか分からなくなりつつあった



そんな中、廊下ですれ違ったプリムさんに顔色が悪いと心配されて控室のソファーで休むことにした

ひとたび腰を下ろして静かすぎるその部屋に一人でいると色々な問題が次々と浮かんでくる中で



やっぱり体は疲れていたのか唇から小さな欠伸がこぼれる。瞬く間に押し寄せる睡眠欲と重くなる目蓋に身を任せ微睡の中に身を委ねた
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