short story
□仲良しリボン
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※主人公がチャンピオンになってからのその後
ふわりと視界の端に揺れるリボンが映る
それがキミだという確信はないのに気づいた時にはもうそのリボンが消えていったほうに走り出していた
角を曲がって見通しのいい通りに出る
キョロキョロと視線を巡らせれば通りの突きあたり
ミアレガレットの売られているお店の前で看板をのぞき込むために前のめり気味になっているキミがいた
走ったためか荒くなった呼吸を整えて偶然を装うように自然に声をかけた
「こんなところで何してるのお隣さん」
ビクリと肩が上がり
そろりとこちらを振り向くお隣さんがいた
「あっ、カルムくん…えっと、なんで」
なんでとは、「変装しているのに」ということだろうか。柔らかな色合いのミントグリーンのワンピースに分厚いショールを肩からかけ、つばが広い大きめの帽子をかぶっている
そのせいか顔が見にくく若葉のような色合いの大きな瞳も隠れてしまっていた。でも胸元にかかるさらさらと揺れる思わず触りたくなってしまうような長い髪は見覚えがあるし
何よりも
「顔を隠してもキミのパートナーが教えてくれるからね」
スッと視線を彼女の腕のほうに向ける。日焼けを知らないような青白く透き通った肌に結ばれている水色のリボン
「ふぃあ」
可愛らしい声で鳴くとその存在を改めて思い出したのか。あ、という声がこぼれていた
「ちゃんと変装するならニンフィアもボールにしまわないと、挑戦したことのあるトレーナーならすぐに気づかれてしまうよ」
「えっと…うん、気を付ける」
肩をすぼめ、瞳を伏せるその表情に後悔する
違う、そんな表情をしてほしくて声をかけたわけじゃないのに
ただ、会うのが久しぶりでなんて声をかけていいのか分からなくて嗚咽に出た言葉がそんな言葉だっただけだ
前ならもっとポケモン勝負とかを話題に話しかけることができていたのに、あの事件を解決して、カロスのチャンピオンまで上り詰めたキミをどこか遠くの存在のように感じてしまう自分がいた
ああ、こんなんじゃだめだ。そう思った
「すいません、ミアレガレットを全種類ください」
するりと横をすり抜けて三種類分のお金を出すと同時に注文をした。店員のお姉さんから「お待たせしました」という声とともに紙袋を受け取って
腕を引いた
「え、カルムくん?」
不思議そうに見つめる瞳が重なった
「食べたかったんでしょ。 せっかく会えたのも何かの縁だし、食べながらでいいから少し話さない?」
自分勝手もいいところだと思いながら握った腕を嫌がって離すことはなかった。そのことに安堵した
重なる瞳に変化が訪れたのはその時だった
ふわりと、とろけるような微笑みがそこにあった。瞳にやわらかな日差しがにじんで花びらのような唇がほころんでいる
「うん…わたしもカルムくんとお話ししたい
聞いてほしいことがたくさんあるの」
そこには俺がキミを好きになってしまった微笑みがあった