short story
□ブラックタイム (カルム)
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大人っぽい、いつも余裕がある、なんでも卆なくこなしてしまう
俺に対して周りから言われるのはそんな言葉ばかりだった
ほら、今だって
「すごいね、カルムくんは苦くないの?」
目の前に座る彼女の髪が覗き込むような動作につられて揺れる
艶のある濡れ羽色とでもいうべき漆黒はさらりとこぼれ甘い匂いをふわりとまいた
あまりにも近すぎる距離に不躾だと思ったのだろうその距離を戻すようにすとんと椅子に腰を下ろし自分が注文した真っ白の生クリームが浮かぶ甘いミルクティーを一口飲んでにこりと微笑んだ
「もう慣れたからね。ナマエももう少し大人になれば自然に飲めるようになるよ」
「そうかな…はぁ、なんだかカルムくんがわたしよりずっと大人に見えるよ
バッチだっていつもわたしなんかより早く集めてるし、わたしよりも色々と詳しいし…」
むっと拗ねるような表情が可愛くてくすりと笑えばあっ笑わないでよ、と少し赤くなる
俺から見れば彼女だってしっかりしてる女の子だと思う。困っている人がいたら助けたり、俺が突然バトルを申し込んでも一度だって断られたことはない
ジムにしたって少し俺のほうがゲットするのが早いだけで彼女もちゃんとバッチをゲットして綺麗にケースの中に並べらている
あと、ポケモンにもありったけの愛情を注いでいることとか
普通ジム巡りをするトレーナーはタイプが偏らないようにバランスよく色々なタイプを育てたりする
俺自身もポケモンのタイプが被らないようにまんべんなく構成を考えて育てているが…
「ん、どうかしたの?ニンフィア」
細い腕に結ばれるピンク色のリボンのような触角は彼女の手持ちの一体、ニンフィアのものだ
新しく発見されたフェアリータイプ
一体くらいなら入れてみようかと思うものの彼女の手持ちにはもう一体フェアリーとエスパーを持つサーナイトがいる
同じタイプが二体
そして、プラターヌ博士から貰ったフォッコはテールナーになりまだマフォクシーにはなっていない
その理由は「テールナーがこのままの姿がいいからって、だから無理に進化させようとは思ってないの」とビックリ発言を聞いた時のことは今でもよく覚えている
俺の貰ったケロマツはゲッコウガまで進化させたのにテールナーを相手にして勝てたことはない
君が俺を大人だというけれどそれは人としての人格だったり仕草だったりであり、ポケモンバトルではやっぱり敵わない
だからあの時―チャンピオンロードでのバトルでは告げられなかった想いはずっと胸の奥に沈んでいる
「あ、クリームついてるよ」
「え、どこにっ」
わたわたとカバンからハンカチを出す前に、白くやわらかな頬に手を伸ばし、小さな唇の横についたクリームをペロリと舐める
それははさっき飲んだコーヒーに比べてずっと甘かった
「っ…」
息のつまる音と共にじわりと熱を帯びて赤くなっていく頬
「ふふ、林檎みたいだよナマエ」
「もう、誰の…せいだと」
あたふたとしながら詰まる言葉を一生懸命に口にしながらキッと睨んでくる
でも、やっぱり好きだなって思う
欲しいと、誰でもない自分のものにしたいと思ってしまう
「覚悟しててね。ナマエ」
ニヤリと笑ったであろう俺にびくりと反応する彼女にまた笑ってしまいそうになった