オリジナルストーリー

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「でね―――」

うん、確かにこれは可愛いわ。目の前でピッピについて語るナマエさんはトウヤさんの言っていたとうりの人だった

チャンピオンであるからその名前や顔を知っていただけだったあたしとキョウヘイくんはたまたまバトルサブウェイに挑戦していたトウヤさんに会ったのがきっかけだった

バトルのアドバイスを貰い憧れだったトウヤさんに会えたキョウヘイくんは感激していたし、知り合いになれただけでもすごいと思う

そして電話番号まで交換できたのだからあたし達のことを少しは気に入ってくれたのかもしれない

何度か会ううちに明らかに機嫌の悪いトウヤさんに出会う日も少なくはなかった

理由を聞いてみたら出てきたのは彼女であるナマエさんのことでアララギ博士の助手として各地方を忙しく調べ回っているらしい

あたしたちよりも二歳年上のその人となかなか連絡が付かないとぶすっとしていたが、手紙が届くとその表情は一変蕩けそうなほど幸せな笑みを浮かべるのだ

テレビに映るチャンピオンとしての彼はどこか冷たさを含んだそれでいて輝きを秘めた―――そう月のような人だと思った

そんな人を手紙一つでここまで変えてしまうナマエさんはどんな人なのだろうと、外見や性格なんかは聞いているうちに覚えてしまい

今日、偶然にもその全てと一致しそうな人がいたのだからつい、声をかけてしまった

そして今に至るのだがなんといっても和む。最初こそ警戒されていたもののすっかり仲良くなれば堅かった口調もほどけて親しげなものになり瞳をきらきらさせている様子を見ると本当に年上なのかと思ってしまう

それまでの控えめでお淑やかに見えた彼女はポケモンがかかわるとこれほどまでに変わるのだ。ずっと見ていたくなるそう口にしていたのがようやく分かった気がした

…ああ、でも。だからポケモンに妬いてしまうだろう

一心に向けられるこの表情全てはここに居ないポケモン達に向けられていて、その少しにでも自分の存在が含まれていないとなれば悲しくなりそうだ

アララギ博士の助手として各地方に足を運んでいる彼女は色々な事を知っていた。聞いているだけで楽しいし、アルバムに大切に整理されている写真は本当に目移りしてしまうほどのものばかり

トウヤさんはチャンピオンであり、ナマエさんは助手。異色者同士だけどとてもお似合いに見えた

まぁ…傍から見ればそうなのだが

「うん…そうだよね」

一変して暗さを残した瞳は何だか自分で自分を貶めているように見えた

本人たちにしか分からない部分があるのは誰しもなのだが、トウヤさん…こんな表情させちゃダメでしょ

なんと声をかけようか迷っているとピタリとナマエさんの動きが止まる。ちらりと視線だけが後ろに向き何があるのか気になったあたしはその隣に移動して耳を澄ますところから始まった

「で、どこまで話したっけ」

「丁度ナマエさんと付き合い始めたところです」

あっこの声はトウヤさんとキョウヘイくんだ
何の話だろうと聞いていればすぐ後ろの席にいるらしく辛うじて仕切りがお互いの姿を隠していた

「ああ、そうだっけ」

「にしてもやっと付き合い始めたって長い道のりでしたね。まぁトウヤさんの話が異様に長いからかもしれないけど」

「は?まだナマエの魅力を半分も語れてないんだけど」

「ええ!あれだけ話してですか」

「まぁ、今でも若干人見知りが抜けないしポケモンのことについて語り始めたら止まらないところとか子供っぽいところもあるし」

「はは、メイもですよ。撮影の後に花束を貰うんですけどお菓子のほうが良かったって言ってるんですよね」

「「…(恥ずかしい)」」

ちらりと横を見れば真っ赤になっているナマエさん。あたしも恥ずかしすぎて何も言えないあたし達をよそに話は続く

「でも、ポケモンに向き合うナマエは誰よりも真剣なんだ。いつの間にかポケモンの側に寄り添ってて、オレにはあんな風に心に深く入り込むなんて自分の手持ちでも難しいのに

…ああでも、それでついて来ちゃうポケモンがいるから考えものなんだけど

ナマエは優しいからポケモンが望むならゲットしちゃうし、アララギ博士も研究が進むって喜んでるし

もういっそのことチャンピオンなんて辞めてオレも旅についてこっかな」

「いや、ちょっと過保護すぎませんか。ナマエさんだってイッシュのバッチをすべて集めた実力の持ち主ですし

新しい仲間が増えるのだっていいことじゃ…」

「別に仲間が増えることが気になるくらいオレは小さな器じゃないけど

問題は行った先でナマエに勝手に惚れる男がいること、連絡先を交換してたり手紙を送ってきたり、イッシュに来たからって研究所まで寄ったり

この前なんて無理やり連れ出そうとしてたから思わずレシラムにクロスフレイムを指示しちゃったよ。ああ勿論ナマエはちゃんと引き離したし、攻撃は明後日の方向にしてもらったけど」

「ええっと…」

だとしても、伝説のポケモンに攻撃されて平然でいられるはずがない、悲鳴を上げながら逃げ出したよとあまりにも自然に言ってのけるトウヤの様子をこの人危ないと思いながら聞くキョウヘイ

「悪い虫が付くから心配なんだよね。本人はモテないとか言ってるけど内面の優しさが魅力になってるって何で気づかないかな

別にナマエのことを守れるようになりたくてチャンピオンになっただけなのになんだか本人は気にしてるみたいだし

ああもういっそのことイッシュから出られないようにしようかな

もっと甘やかしてオレがいなきゃダメになったら後ろめたさなんて感じなく…」

「ストップ!途中まではすごくいいんですけど後半がアウトです!」

「結構真面目に言ってるんだけど」

「(ナマエさん、逃げてください)」


まだ会ったことのないその人に向けキョウヘイは心の中で叫んだ。チャンピオンとしてまだまだ敵わない憧れの存在なのが人として(彼女さん限定)は色々と危ない


 


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