ゲーム沿い

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バトルというものは言葉を介さなくても成立してしまうものだった。目の前で行われるバトルはもはや「信頼」だけで成り立っているように思えた。

そんな普通とは一線を駕したことをカルネさんは笑顔でこなしてみせた。

「特別な事はなにも必要じゃないの。ただ相手を信頼してそれが相手にも伝わればきっと上手くいくわ」

「…まだわたしには難しそうです」

素直な意見に苦笑を零した彼女はそっとサーナイトに寄り添う。

「大切なのはポケモンを信頼すること、決して目を逸らさないこと、目はね口で語るよりもずっと多くのことを伝えてくれるのよ」

確かにバトルの間、カルネさんはサーナイトから一瞬たりとも目を離してはいなかった。でも時折ほんの一瞬だけ交わる視線。それだけで全ての攻撃を躱し、技の指示があるまで乗り切ってみせたのだ。

目は口程に物を言うとはまさにこのことだろう。
せめてキルリアをちゃんと見て、細かく指示をするところから始めようと思った。そしてバトルに対しての認識も変わりつつある。

バトルは「コミュニケーション」であり「絆を深め合うもの」という形でわたしの中で収まった。真に理解し、お互いに求めるものを得るにはバトルは必要不可決になるだろう。
もう怖くない。怖いとは思えない。少なくともカルネさんが解いてくれた恐怖は再びわたしを襲うことはないだろう。

「ねぇ、キルリア。わたしはあなたのように身を呈して戦えるわけじゃない。けれど誰よりもあなたの側にいて、あなたを導くよ。
心だけはあなたと共に連れて行って」

これが答えだった。


さぁ、もう一度バトルの練習をしよう。ハクダンジムに挑戦出来るくらいには力をつけたい。
側には頼もしいカルネさんが見てくれている。

ガサリと近くで音がした。
一つ深呼吸して飛び出してくるポケモンに備える。がさがさと草が踏みしめられ、がさっと一際大きく草むらが揺れ、出てきたポケモンに戦意はあっけなく姿を消す。

「えっと…どうしたのっ」

ふらりと足元が覚束なくなり片膝をついた。それでも堪えきれずぱたりと横たわった体にそれまでの一切を忘れて駆け寄った。
酷く傷ついている体は土で汚れ所々千切れた草が絡みついている。苦しそうに呻いて、力なく徐に開けられた瞳がわたしの姿を映すと激しく抵抗した。

ばたばたと手足を動かし、とても抱えていられそうになかった。でも落としてしまえばさらに傷が増えてしまう、これ以上苦しんで欲しくなくて必死で腕の中に縫い止めた。

「大丈夫。大丈夫だよ、わたしはあなたに何もしないから」

懇願するように何度も言い、その願いは次いで現れたシシコによって叶えられた。

シシコもまたその体に傷を負っていてひどく疲弊している。よたよたと近づいてきて腕に中に抱えられているリオルにそっと鼻先を寄せた。

ぐいぐいっとこすり付ける様子は「大丈夫」とわたしと同じ気持ちを伝えているように思えた。
するとようやくリオルはシシコの無事を確認したからか、同じポケモンと言う存在が近くに来て安心したからか強張っていた体の力を抜き、目を閉じた。

そのことにほっとして、側に来たシシコに「ありがとう。あなたのおかげだよ」とお礼を言う。弱々しく鳴いてとんっと四肢を寄りかからせて来た。大変だ。

2体を抱き上げようとしていた所をカルネさんが「シシコはあたしが持つわ」と請け負ってくれる。

「でも、カルネさんの洋服が…」

近くで見れば服はとても良い生地で作られていることが分かった。黒といえど汚れがついたら簡単に落ちないだろう。
彼女は「そんなこと気にしなくていいの」とポンッと優しい手つきでわたしの頭に手を置いた。

「それを言うならチセちゃんだって綺麗な服が汚れちゃうでしょ。ポケモンが助かるのならこんな服どうってことないわ」

わたしも同じです。と肯定を現すために頷いて、向かうのはポケモンセンターだ。



***



「リオルとシシコはもう大丈夫ですよ」

ジョーイさんの言葉にようやく肩の荷が下りる。
「様子を確認してみますか」と問われ、「出来るのなら」と返せば案内してくれた。

大きなガラス越し、プクリンが丁度眠る二体に毛布を掛けている所だった。安らかに眠る姿に安心した。

「今日はこのポケモンセンターに泊まりましょうか」

共に見つめていた視線がこちら向けられ、なんだかすごく申し訳なくなった。

「いえ、カルネさんはただわたしのしたことに巻き込まれただけですし、ご迷惑でしょう?」

大人が子供にかける時間がそんなに沢山ないことを知っていたから付き合ってくれるということが彼女に無理をさせているのではと思い丁寧に断る。
しかしふるふると首を振った。

「あたしもあの二人が心配なの。それにあなたのことも」

「わたしも?」

「なんでも抱え込んじゃだめよ。あの二体はあなたがいてくれたから無事だったの」

「すみません」とポツリということしかできなかった。ズキズキ痛むこの痛みはあの子達から譲り受けたものなのだろうか。…どうもわたしは人やポケモンが傷ついたり悲しんだりしていると耐えられなくなった。

「ほら、キルリアもあなたの不安を感じ取って離れようとしないのよ」

諭されて、視線を向ければキルリアは共に感情を分かち合うようにぎゅっと手を繋ぎツノをほんわり光らせていた。


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