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□木登り
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無駄に広くでかく豪華な赤が目立つ屋敷の近くの竹林に子供は居た。その見つめる先には何やらいつになく真剣な顔つきで話し合いをしている顔見知りがいた。こんなに真面目そうな彼を初めて見たかもしれない子供、日本はしばらく見惚れていたが話し相手の顔を確認すると何処か見覚えのある顔だった。ここからずっと西に家を持つ、ローマ帝国だ。
(お二人とも忙しそうですし、お邪魔しない方がいいですよね)
幼いながらに(もう四桁近いが)空気を読むことが得意な日本は屋敷に背を向けると竹林の中を歩き始めた。あの二人の話が終わるまで時間を潰そうと考えたのだ。しかし特にすることはない。なにも考えずに歩いているといつの間にやら竹林を抜けて見晴らしのいい林に居た。日本はここで昼寝でもしようかと思い横になる。すると聞いたことのある声が耳に入ってきた。
「あそこにいる子供見たことあるなー」
「前に中国さんが紹介してくださった日本さんじゃないですか?」
「あー、言われてみれば」
特に眠くもなかったのですぐに起き上がり声の主へ顔を向ける。すると、数年前に中国の家で会ったことのある二人だった。
「ペルシアさんとエジプトさんでしたよね?」
記憶に自信がないわけではないが、間違っていては失礼だろうと思い少し小声で確認してみる。
「よく覚えてるな、お前」
「こんな可愛い子に覚えてもらえて嬉しいです」
どうやら間違っていてはいなかったようで安心する。
「ところでこんなところで寝る気だったのか?」
「中国さんが忙しそうでしたので一人でいたのですが、することがなかったので

すると目の前の男、ペルシアは日本を抱き抱えると辺りを観察した後、一本の木の前まで歩いていった。後ろから心配そうに古代エジプトも着いてくる。
「することがないなら木登りするか!男のロマンだな」
ペルシアは日本を抱えたまま木の枝に手をかける。しかしその木はあまり丈夫そうではなく、力をかけすぎたら枝が折れてしまいそうな見た目だった。
「あ、危ないですよ!折れて日本さんが怪我したら中国さんに凄い怒られますよ!」
「男なんだから怪我のひとつやふたつしないと大人になれねえよ」
そう言いながらペルシアはすいすいと木を上って行く。日本は少し怖がりながらも、ワクワクしていた。ペルシアが日本に見ろ、と合図を送った。恐る恐る周りを見ると中国の風景が広がった。奥の方には中国とローマがいた屋敷が見える。そこまで高くないと思っていた木はそうでもなく、そこそこの距離まで見渡すことが出来た。しばらく黙って見ていると、枝がミシミシと嫌な音をたて始めた。二人は一気に青くなりペルシアが慌てて下りる。慌てすぎたせいか途中でペルシアは足を下ろす場所を間違え尻餅を打った。踏み外したところはそれほど高くなかったためか大きな怪我もせず、日本への衝撃もあまり来なかった。
しかし、一番恐ろしいのはその後だった。心配で胃痛がした古代エジプトは屋敷に二人を連れていくとすぐさまそこに居た中国、ローマ、そしてゲルマンに報告した。特にペルシアは中国とゲルマンに、安易に危険なことをするな、子供を巻き込むな、とかなり長い時間説教されていた。一方、日本は話を聞いたローマが日本にもっと面白い遊びがあると、いけない方向の話を始めようとし、こちらも、特に中国に制裁を受けていた。

しかし日本は今回の体験を面白かったととらえており、こっそり木に登って中国に怒られたのはまた別の話である。

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