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□紀元前
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「こいつが我の自慢の弟の」
「弟じゃないです」
「あーもう!紹介中に邪魔すんじゃねーある!」

ここは2000年以上も前の中国。ローマに連れられ数人の国がシルクロードを渡りやって来たところである。
ローマ、ゲルマン、ペルシア、古代エジプトの4人の急な来訪に中国の上司達が大慌てでもてなしの準備をしている。その間の空いた時間が暇だとローマが言っていると中国が
「丁度今紹介したい奴が近くが近くの竹林で遊んでるある。呼んでくるから一寸待つよろし」

少しばかり待つとアジア特有の黒目黒髪の小さい幼児を脇に抱えて戻ってきた。
「離してください!一人で歩けます!」
「おめーは小さいあるからこうした方が速いね」
「中国、その小さいのが紹介したい奴か?」
「見知らぬ人にも小さいだなんて…!遺憾の意!」
「拗ねるんだったら我が紹介するある」

…と、冒頭に戻る。
「え、弟じゃねえの?」
「弟ある!農作も勉強も全部我が教えてやってるあるよ!」
「血も繋がっておりませんし、弟扱いは嫌です。私も1つの国です」
「まあまあ、血は繋がってなくてもご兄弟って素敵ですよ?」
「弟じゃないです」
「折れる気はないだろう。今しつこく言っても言うだけ無駄になるぞ」
「そんな事より宴会の準備できたの?」
「お前はそればっかだなー。俺も腹減ったけど!」
ペルシアとローマが腹の虫を鳴らす。
「お前たち…」
「仕方ねーから食事にしてやるある。あ、そこのお前ら准备好了吗?」
「是的,它准备」
「準備出来たらしいある。んじゃ移動するよろし〜。」
中国が日本を抱きかかえたまま進もうとするので足をじたばたっせ精一杯抵抗すると、やっと降ろしてくれた。一瞬着いて行くか戸惑ったようだが中国が手招きするとパタパタと着いてきた。その光景に中国とローマと古代エジプトの顔が緩んでいる。
準備が終わったという部屋に入ると明らかにそこは酒の席であった。日本は小さいからお酒は飲めないだろうと踏んだゲルマンが日本に声をかけようとするが、よく考えたらこの子供の名前を聞いていないことに気付き、伸ばした行き場のない手をぶらつかせながら言葉に詰まっていると、状況を察したらしい古代エジプトが中国に声をかける。
「そういえばこの子の名前聞いてませんでした」
「話が脱線して忘れてたある、こいつは日本ていうあるよ」
日本は「宜しくお願いします」とぺこりとお辞儀をする。その場の全員がその光景に癒された。
中国はその場に他の者が居なければすぐに抱きしめていただろう。しかし、西の国々がいるのにそんなに呆けていることは許されない。化身はこんなのでもこの時代の中国は世界一の国である。大先輩として威厳を見せつけなければ、と思いとどまったのだ。
「でもここ酒の席だろ。日本飲めないじゃん」
ペルシアが先ほどゲルマンが言おうとしていたことを口に出す。
「そう言えばそうある。こいつ歳は意外と喰ってるあるがこのちまい体で酒は耐えられないはずある」
「お酒は精神年齢の話になりますもんね」
「お酒は飲まないので、ご馳走を一口頂いてもよろしいでしょうか…?」
日本はお酒の問題よりご馳走に目をつけたようだ。ご馳走を見つめる日本の瞳はキラキラと輝いている。
「相変わらず日本は食い意地張ってるあるねー、構わねえあるよ。ご馳走なら一杯食ってくよろし!」
「じゃ、まずは乾杯だな!」




翌朝、はしゃぎ過ぎていつもより飲んでしまい泥酔してしまった大人たちを起こすのに必死な子供の姿があった。

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