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□類は友を呼ぶ
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日本人たるもの、和食を食せ。
私はそう思う。日本に生まれたからには箸を使って食べ物を口に運びたい。米という最高の食文化を大切にしたい。その考えは幼少期の教育の影響もあるだろう。消太さんからの教えではない。今となっては顔を思い出すことすら出来ない父親がそうだったから、一族にいた頃には和食以外口にした記憶がない。

この街に来る前の記憶はほとんどないが、それだけは体に染み付いているようで私は今も雄英の食堂では和食ばかりを好んで食べていた。

そして今日も私は梅雨ちゃんこと蛙吹 梅雨(あすい つゆ)と共にお昼を食べているわけだが、もちろんトレーには天丼が乗せられている。

「鏡子ちゃんて、いつも和食ね」

「うん!和食が一番好きなんだ!やっぱ落ち着くってゆうか」

私はそう言って米を箸で口に運んでいた。すると、音もなく近づいてきた気配を感じると同時に、私の背後から声が聞こえてきた。

「やっぱり、フランス料理が一番だよね」

聞き捨てならないその一言。それは偶然ではない。意図的に私に当てられた言葉であることは明らかだった。

「物間……」

私はチラリと後方に視線を送り、悪戯に笑う物間 寧人(ものま ねいと)の姿を視界にとらえた。

「和食ってなんていうのかな、庶民感が拭えないよね。やっぱりフレンチは盛り付けもおしゃれだし高級な感じが合う人には合うっていうか……あ、ごめんこんなところに庶民派の鏡見……」

ドッ。

嫌な音とともに物間はガクリと膝から落ちた。爆豪とはまた違った意味で口が悪い彼を宥める拳藤 一佳(けんどう いつか)が来たのだ。精神が若干不安定な物間の暴走を、手刀で一撃食らわせ黙らせる。これがいつものパターンだった。

「ごめんな、鏡子。こいつテストでクラス最下位取って今不安定なんだ」

「お、おい!拳藤!」

痛みからかグッタリとしていた物間だが、彼女の情報漏洩により動揺を隠しきれない。

「はは〜ん、物間。意外と勉強苦手なんだ?」

今度は私が悪戯にニヤリと笑った。敵の痛いところは突く。消太さんに教わったことである。ばつの悪そうな顔をしている物間を横目に私は優位に立った気でいた。ふと現れた彼が余計なことを言うまでは。

「お前もだろ」

ギクリと体が跳ねるのがわかる。私達が食べているテーブルの横でクラスメイトの轟 焦凍(とどろき しょうと)が蕎麦をトレーに乗せて立っていたのである。

「ちょっと轟……!」

台無しだ、物間の目の前でそれを言われては。私の顔から笑顔はなくなっていった。そんな私の目の前で轟は呑気に蕎麦をすすり始めている。

「えぇぇ?君、A組なのに赤点取ったの!?えっおかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なはずなのにぃ!?あれれれぇ!?」

精神が不安定な彼は私に明らさまに煽りを入れてきた。乗ってはいけないとわかっている。爆豪とは違った絡みだが、感じる苛立ちは似たり寄ったりだった。

「……うるっさいな」

私は海老天を箸で挟み、口に運びながら小さく呟いた。

「鏡子、気悪くしないでな。こいつ個性の影響でか、いつもこんなんなんだ」

先ほどの手刀の痛みからまだ立ち直れない物間の頭をポンポンと叩きながら拳藤さんは言った。

「鏡子と個性似てるのに、お前だけなんでこんなに不安定なんだろうな」

彼女はそう言って意地悪そうな顔で物間に言うのだが、物間はそれに対してなんの反応も示さなかった。視線を私から離さない。そして力を込めて立ち上がると、食事中の私の左肩をガシッと掴んだ。

「君にとって僕は相性最悪なんだ、知ってた?」

そう言った物間の目は、人を蔑むように深い闇をしていた。やばい奴であることが完全に露わになっている。

「轟、ちょっとこの人凍らせてよ」

「俺を巻き込むな」

助けを求めたつもりだったのだが、轟はあっさりと受け流し蕎麦を口にした。わかってはいたが、相変わらずつれない奴である。

「君の個性って〈模写〉だろ?確かに強力だけど、でも僕を〈模写〉しても意味ないよね。何でだかわかる?なぜなら、僕の個性は〈コピー〉だから!」

「知ってるって」

私は物間に強く掴まれた左肩を右手で掴むと、力づくで引き剥がして言った。彼の言っていることはごもっともだ。もしヴィランと対峙し、身近に物間が居たとしても〈模写〉はしないだろう。私と物間の個性は確かに似ていて、相手の個性を使える部分に関して言えばダダ被りなのだ。〈模写〉する意味はない。

「でも僕の場合は違う!君に触れた後、5分間は〈模写〉を使える!こうやって別の人に触れれば……ほら、こうなる!」

そう言って梅雨ちゃんに馴れ馴れしくも触れた物間は、その場で姿を“蛙吹 梅雨”へと変貌させ、そしてすぐさま元の姿へと戻ってみせた。

「ほらね!僕には君が必要なんだ!」

その場の空気が静まり返る。ここは食堂だ。周りの雑音はあっただろうが、その一瞬は時が止まったかのように感じた。

「なにそれ、告白?」

拳藤さんは冷静に物間に言った。私もそう思ったが言わないでいたのに、その辺りはさすがである。

「え………ええぇぇぇえ!?僕いま告白した!?あれええぇぇ!?おかしいなぁ、こんな奴のこと好きでも何でもないのに!ええぇぇぇえ!?」

物間は途端に動揺し、テンションがおかしくなっていた。自分が言ったことなのに訳が分からなくなっている様子だ。仕方ないから頭を整理させてあげようと私は口を開いた。

「“物間の個性にとって”ってことでしょ、ばか。そんな態度したら勘違いされるよ」

だんだん絡むのが面倒になってきた私は、さっさと食べて教室に戻ろうとご飯を口に掻き込んだ。

「そ、そう!つまり、君にとっての僕は無個性同然でも僕にとっては使いようがあるってこと!つまり僕の個性の方が上ってこと!」

プライドの高い物間はいつもこうだ。何かと私より、いやA組より上に立ちたがる。誰よりA組をライバル視していた。だが、今日の会話は明らかに失敗のようだ。

「自分のことも悪く言ってるよ、それ」

私は呆れたように言うと、物間は額に汗を垂らしながら困惑していた。

「梅雨ちゃん巻き込んでごめんね、もう行こう」

私はまだ食事を続ける轟をそのままに、梅雨ちゃんに声をかけると席を立った。横ではまだ物間が不安定な自分の心情と戦っている。

「あれ?僕が鏡見を〈コピー〉することは有益で、鏡見が僕を〈模写〉することが無益……ってことは個性が強力なのは結局のところ……」

ブツブツと言っている物間を横目に私は食べ終えたトレーを手に持ち、その場を離れるように食器返却口へ向かって歩き始めた。

「まぁいい!君とはいつか絶対決着つけるからな!覚えてい……」

ドッ

本日2度目の鈍い音は、またもや物間を静かにさせた。拳藤さんも大変だと、他クラスながら同情してしまう。

「ごめんな」

呆れたようにそう言う拳藤さんは、力なく倒れている物間をズルズルと引きずって出口へと歩いて行った。

1日に2度も手刀で倒れる物間を見たのは初めてだ。今日は何かいいことがあるかもしれない。私は少し口元を緩ませながら、午後を楽しみに歩いて行った。



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