Book-short-

□夢のまた夢
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「なぁ鏡見〜、今日学校終わったら飯いかね?」

私が思う1年A組一番のお調子者、上鳴電気は今日もまた懲りずにご飯を誘ってきた。入学式の日から毎日ずっと、1日も欠かさずに声をかけてくる。なかなかの根性の持ち主である。

「遠慮しとく。お腹空いてないし」

そう言って私は毎日、何かしらの理由をつけては断っていた。どんなに些細な理由でも、毎回同じ理由で断っても、彼は一切へこたれない。

「今日もダメかぁ、くそぅ」

そう言って頭を掻きながら席に戻っていく後ろ姿は、正直もう見飽きている。クラスに女の子ならたくさんいるだろうに、なぜこうも響かない私にしつこく付きまとうのだろう。

別に彼が嫌いなわけではない。強力な個性〈帯電〉は仲間として尊敬している部分もある。だが、いかんせん日頃の行いが悪いせいか、ご飯の誘いに乗る気にはなれなかった。

「しょーがね、帰ろうぜ」

そう上鳴が言うと、同じく駅へ向かう切島 鋭児郎と蛙吹 梅雨が鞄を手にして立ち上がる。そして私も同じように椅子を引いて立ち上がり、リュックを背負った。



「明日は英単語の小テストかよ!だっりぃ」

帰り道、上鳴は伸びをしながらそう言った。そんな大きな声で言って、もし近くに英語教師のプレゼント・マイク先生が居たらどうするつもりなのだろう。幸い近くに人の気配はないようだが。

「勉強嫌いな俺達にとっちゃ、きついもんあるよなー」

切島も便乗して愚痴を言っている。雄英高校はヒーローになるための専門学を学べる学校ではあるが、もんろんカリキュラムには必修科目として国語・数学・英語などの主要科目や一般教養も含まれている。明日は英語の小テスト。正直勉強が得意ではない私も憂鬱だった。

「てか鏡見の個性〈模写〉って、頭の良さまで自分に写せんの?そしたらテスト前に八百万に触っとけば最強じゃね?」

俺、頭いー!とでも言いたげに目をキラキラとさせ、こちらに向かって屈託ない笑顔で言ってくる上鳴。憎らしいような、憎めないような。本当に不思議なやつだ。

ちなみに八百万というのは、クラスメイトの八百万 百のことだ。しっかり者で頭も良く、育ちの良さそうな1年A組の副委員長だ。

「それは無理だよ。私が〈模写〉できるのは『姿・声・個性』のみ。思考やその人の筋力、体調とかは〈模写〉できない」

そう言うと、あからさまに残念がる上鳴と切島。なんとなく期待を裏切って申し訳ない気持ちが湧いていたが、一連の話を聞いた梅雨ちゃんは冷静に言う。

「でも個性発現したら見た目が八百万ちゃんに変わるわけでしょう、カンニングがすぐバレるわ」

その場が凍りついた。梅雨ちゃんのせいではない。一番重要なことを忘れて盛り上がっていた自分たちが情けなくなっただけだ。

「た……確かに。どんまい、鏡見」

切島はなぜか私を慰めるような言葉を吐いた。誤解を招く発言はやめてくれ、私は別にカンニングしようとしていたわけではない。言葉には出さなかったが、心の中ではしっかりと突っ込んでいた。

「勉強するしかないかァ」

上鳴も自身の個性〈帯電〉では何も策が思いつかなかったのだろう。がっくりと肩を落とし、トボトボと歩いていく。

「あ!じゃあさじゃあさ鏡見!明日の小テストで俺8割取れたら今度こそ飯行かね?」

どうしてこうも様々な案が思いつくのだろう。つい先程のトボトボとした足並みは今ではスキップに変わっている。ウキウキしているのがあからさまだ。

「別にいいよ、その代わり8割以下だったら校庭で例の『ウェ〜イ』ってやつやってね」

“例のウエ〜イ”というのは、上鳴が“個性”を使いすぎてショートした時に出るアホな動作だ。顔も声も、動きすらも醜態を晒すにはこの上ない代物だ。

私にはその賭けに乗って勝つ自信があった。入学以来、漢字テストや数問テストなど様々な小テストがあったが、上鳴が50点以上を取っていたところを見たことがない。勉強が苦手ということは周知の事実だった。

「やめとけよ……お前には無理だって」

切島も呆れて物も言えないと言った表情をしているが、上鳴には聞こえてなかった。

「っしゃあ〜!じゃ、俺勉強しなきゃだから先帰るわ!また明日な〜!」

ガッツポーズをしたあと、すぐさま駅に向かって走って行ってしまった上鳴の後ろ姿を3人は静かに見つめた。

「鬼かお前は」

上鳴を見つめながらもニヤリと笑う私の顔を、切島は見逃さなかった。



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翌日。今日は1時間目が英語、つまり朝一で小テストが行われる。だが、学校に到着し教室に入るとまさかの光景が目に入った。

「ウ……ウエ……ウエ〜イ……」

上鳴が朝からショートしていた。周りには困惑した表情のみんなが集まっている。

「おはよう。上鳴ってば、どうしたの」

リュックを下ろしながら近づくと、切島が頭をかきながら困ったように言った。

「徹夜で勉強してショートしたっぽい」

「え゛」

確かに、顔も言動もアホになっている。でも、ショートするのは“個性”使いすぎた時だけなんじゃ。そう考えていると、切島がまるで私の心を読み取ったかのように答えてくれた。

「こいつ、勉強のし過ぎもショートすんだな」

「ウエ……ウエ〜イ」

なんというか、呆れるを通り越して驚きだ。ショートするほど勉強したという努力は認めよう。ただ、それでアホになっては本末顛倒だ。

上鳴はその後もショートが治ることなく、テスト中も「ウエ…イ」と声を出してはプレゼント・マイク先生から注意を受けていた。

結局点数はボロボロで、なんならいつもの方がマシだったかもしれない程の結果となった。もう昼過ぎだというのに上鳴は未だにひどく落ち込んでいる。それもそうだ、一生懸命勉強した結果が出なかったのだから当然かもしれない。しかも、醜態を晒す約束までしていたのだ。机に突っ伏している上鳴の席へそっと近づき声をかけた。

「ねぇ、今日の放課後カフェでも寄ってく?」

私なりの100歩、いや1000万歩譲っての発言だった。だが、返答がない。どうやら寝ているようだ。なんだか腹が立ってくる。落ち込んでいるのかと思ったら、ただ寝不足で居眠りしていただけだったのだ。

「おい!バカ起きろ!」

一連の流れを見ていたのだろう、切島が慌てて寝ている上鳴の頭を引っ叩いた。バシッという音が教室に響く。

「んあ?なんだなんだ!?」

アホ面で目を覚ました上鳴だったが、私の感情は冷めきっていた。一瞬でも可哀相だと思った自分が馬鹿だと思った。

「さぁ、上鳴くん。約束は守ってよね。校庭で一人ショート、行ってらっしゃい」

私の魔女のような表情に上鳴の顔はみるみる青くなっていった。




今日も晴天。相変わらずの毎日。
雄英の広い広い校庭では、一人変な男がグラウンドを走っている。淡々としているようで刺激的な日々を、私は楽しんでいるのであった。

私が上鳴とご飯に行くのは、まだまだ遠い先のお話。





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