Book-long-A
□決着
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緊迫した空気は相変わらず漂ったままだ。
「耳を貸さなくていい。ただの人殺しの理屈だ」
私は右手をピキキと鳴らせ、氷結を出す準備を整えた。
「奴も焦ってる。血液型という不確定要素に持続時間の短さ、おまけに近接必須の個性。プロが来る前に終わらせるつもりだ」
私はヒーロー殺しの威圧感をピリピリと肌に感じつつ、間合いを取った。奴の個性が近接必須ならば、私が得意とする肉弾戦には持ち込めそうにはない。
ガガガガガガッ!!!
私は襲いかかるヒーロー殺しに、針のような氷を浴びせた。轟も負傷した左腕は使わずに、右手から氷結を繰り出している。
ボスッ…!バスッ…!
少し離れたところでは飯田くんの足元から空気の抜ける音がしていた。どうやらふくらはぎに装着された冷却装置が故障してしまったようだ。
「轟くんか鏡見くん!温度の調整は可能なのか!?」
焦る様子を見せる飯田くんに、私は困惑した表情で言った。
「言っとくけど私は精密なことは無理だよ!」
すると轟が飯田くんへ視線を送り状況を確認し答えた。
「炎熱はまだ慣れねぇ、何でだ!?」
「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」
飯田くんの言葉の意図はわからない。だが、とても焦っていることは間違いなかった。それで勝機があるのなら轟の調整と飯田くんの策に賭けるしかない。その隙を易々と与えはしないのがヒーロー殺しなのだが。
シュッと風を切るように投げつけられたナイフが轟目掛けて飛んでいく。飯田くんはそれに誰よりも早く反応し、瞬時に右手を差し出し轟を庇ったのだった。腕にはナイフが突き刺さっている。さらに間髪入れずに投げつけられた剣先の太いノコギリ型の刀剣が腕を貫通し、飯田君は痛みで地面に倒れこんだ。
「飯…!!」
「いいから早く!」
思わず私が駆け寄ろうとすると、飯田くんの険しい表情と厳しい声に足を止めた。心配する余裕、その時間は残されていないのだろう。轟もそれを感じ取り、すぐさま飯田くんのふくらはぎを凍らせた。
パキキッ......!
ドルルルルルルルッ!!
轟の手から冷気が出ると同時に、辺りにはエンジン音が鳴り響いた。
「鏡見くん!これを抜いてくれ!頼む!」
その言葉に私は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに飯田くんの右腕からそれを引き抜き、上空から攻撃態勢を向けているヒーロー殺しへ投げつけた。
大きなエンジン音とともに一瞬にして飛び上がった飯田くんはヒーロー殺しへ向けて左足を振りかざした。腕からは血が溢れている。
それと同時にボロボロで倒れていたはずの緑谷も氷を踏み台にして飛び上がり、 ヒーロー殺しへ拳を震わせた。
二人からの攻撃はヒーロー殺しの動きに迷いを生ませ、大きな音を立ててしっかりと急所を捉えたのだった。
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