Book-long-B
□圧迫感
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その後、私は半日以上をかけて家路を辿った。最寄駅からしばらく歩いた後にたどり着いた見慣れた家の前で足を止め、ゆっくりと深呼吸をし勇気を振り絞って家の扉を開く。
ガチャッ。
「わっ!」
軋む扉を開けた先には、すでに消太さんが立っていた。ただそこに居たわけではなく、私が帰ることを見越していたかのように仁王立ちをしてこちらを見下ろしていた。
「びっくりした……!た、ただいま戻りました。消太さ……」
「入れ」
どうやら、消太さんは今すこぶる機嫌が悪いようだ。私の言葉を遮るとプイと顔を背け家の中へ入っていってしまった。
「荷物置いてそこ座れ」
「は、はい……失礼します……」
人生の大半を過ごしてきた家のはずなのに、今はここがとてつもなく居心地が悪い。まるで雄英高校の入学試験の際に行った面接のようだ。面接ではこんな圧迫感はなかったにせよ、肩に力が入るこの雰囲気はそれと同じと言えるだろう。
「俺が何を言わんとしているか、わかるか?」
「えっと……その……あれですよね。神野区の……とか」
私は額に汗を滲ませ、あからさまに動揺しながら言った。嘘をつくつもりはないのだが、消太さんのあまりにも鋭くまっすぐな瞳を私は直視出来ないでいた。
「なぜ、あの場に赴いた?」
「それは……爆豪が心配で……救けたくて……」
低く淡々とした消太さんの言葉が私を追い詰めて行く。マンダレイのように平手で済むならそっちの方が楽かも知れない。そう思ってしまうほど、そこに流れる空気はとても重かった。そして追い討ちをかけるように消太さんは小さく溜息をつくと、ボサボサの頭をさらに掻きながら呆れたように言った。
「それがお前の考えた最善だったか。だとしたら、それは浅はか過ぎる」
私は口を紡いだまま、ただ消太さんの言葉を聞いていた。自業自得なのだが、言葉の1つ1つに胸が締め付けられていく。消太さんは自分を落ち着かせようと努めているのか眉間にしわを寄せながらもゆっくりと続けて言った。
「元凶だったヴィラン、オール・フォー・ワンは並大抵のヒーローがまともに戦える相手じゃない。あの場にいて生きて帰れる可能性は決して高くなかった」
その通りだと心の中で頷いた。あの場にいて体感したからこそわかる。ヴィランだらけで殺気渦巻く場から無事に逃げ切れたことは奇跡なのだ。ましてや爆豪の救出も成功したのは神様が味方したとしか思えない展開だった。
「今回の件を含め雄英に入ってからのお前の無茶な行動は目に余る。これは保護者として担任として俺にも責任があるわけだが、今の環境のままでいて改善が図れるとも思えない。つまりは、もう現状のままではいられない状況まできているということ。わかるか?」
私は視線を上げ、消太さんの目を見た。消太さんの言葉の意味が私にはわからなかった。それでも、なぜだか嫌な予感だけは感じていた。
「それってどういう……」
恐る恐る口を開く私をまっすぐ見つめた消太さんは、迷う様子もなく私に言った。
「ここを出て行け」
「……えっ」
一瞬にして頭の中が真っ白になり、思考が止まるのがわかる。空っぽの脳には消太さんの言葉だけが虚しく反響していた。
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