Book-long-B

□叱責
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朝の街はとても静かだ。事件後とは思えないほど人通りは少なく車もさほど走ってはいない。朝焼けが広がる空をぼんやりと眺めながらラグドールが運ばれたという病院へと向かっていると、ふと頭には消太さんの顔が思い浮かんできた。

きっと今はまだマスコミの対応で大忙しなのだろう。携帯電話へは着信もメッセージも残されてはいない。だが、私達が神野区へ向かいヴィラン連合のアジトへ近づいたことが彼の耳に入るのも時間の問題である。

おそらくまた叱られるだろう。今回ばかりは消太さんの監督不行き届きなどではないのだから。私の身勝手な行動により起きた今回の出来事は、結果爆豪の救出が成功したとはいえ褒められることではないのはわかっている。厳しい言葉とともに注がれる鋭く冷たい消太さんの視線を想像し私は軽く身震いをした。

タクシーは病院の救急外来の入り口にゆっくりと止まり、私は運賃を支払うと降り立ち病院を見上げた。建物はとても大きく、案の定その壁は白い。私は入り口を通り言われた病室へと向かっていった。とても静かな廊下を抜け、小さな病室の扉を開くとそこにはベッドに横になり眠るラグドールの姿が目に入った。既にマンダレイとピクシーボブ、そして虎はラグドールを囲んで座っており、とても不安げな表情のまま椅子でうな垂れていた。

「鏡子……」

真っ先に私に気づいた虎の声により他の2人も顔を上げてこちらを見た。そして体を立ち上がらせると私に駆け寄ってきた。

「マンダレイ、ラグドールは……」

パシンッ。

静かな病室に突然響いたのは、掌で肌を叩く音だった。一瞬世界が止まったかのような感覚になる。それはマンダレイが私の頬を叩いた音だった。

「馬鹿!またあんな危険なところに行って……」

驚いて固まる私の前で、マンダレイは目に涙を浮かべて言った。突然の出来事に呆気にとられると共にジンジンとした痛みが頬に伝わってくる。呆然と立ち尽くす私をマンダレイはグッと引き寄せ、とても強い力で抱きしめた。

「なんで無茶ばっかりするの……」

「マンダレイ……」

私は溢れる涙と震える声を我慢していた。消太さん以外にもこんなに私を心配して怒ってくれる人がいるとは思わなかった。頬を伝う涙は逆らうことなく自然と頬を伝って流れていく。

「落ち着けマンダレイ、鏡子もまた友のために動いたのだ。だが……我達の気持ちもわかってくれるな?鏡子よ」

「ごめん……なさい……」

私がふり絞ったやっとの言葉を聞き、虎は少しだけ優しく微笑んだ。そんなやりとりを見ていたピクシーボブは静かにハンカチを差し出した。

「ラグドールはまだ目を覚ましてないの。ほら、2人とも涙拭いて」

ピクシーボブは私達を落ち着かせるようにとても冷静に言った。だが、その目元には隈がありとても疲れたように見える。きっとラグドールが行方不明になってから眠れぬ日々を過ごしていたに違いない。

虎は涙を拭う私とマンダレイをベッドの横にある椅子まで誘導し、私たちはそれに従い静かに腰を掛けた。




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