Book-long-B

□解散
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「みなさま!無事で何よりです!」

人が行き交う駅前でしばらく待っていると、人混みの中から轟と八百万さんが現れた。八百万さんは私の手をぎゅっと握りしめ、安心した表情を見せると皆の顔を順に見つめていった。

「爆豪さん……」

「んだよ」

嬉しそうに肩をなで下ろす八百万さんの様子をみて爆豪は相変わらず不機嫌そうだ。しかし、いつものような殺気に似た圧力は感じない。やけに落ち着いている。

その違和感はただの気のせいだったのかもしれない。みんなは特に気にする様子もなく、切島に至ってはそんなやりとりをよそに逆に落ち着きのない様子でキョロキョロと辺りを見渡し警察官を探していた。

「とりあえず警察んとこ行こうぜ。爆豪が無事だって報告しねぇと」

そう言って小走りで近くにいた警察官に声をかけると、その後あっという間にパトカーが到着し警戒態勢が取られていった。パトカーのサイレンとたくさんの警察官が集まるこの状況により、事の重大さが益々身に染みて感じられていく。

「それじゃあ……また学校でね、爆豪」

「ああ」

私はらしくないほど大人しくなった爆豪に向けて言った。いつも通りのあっけない返事とは相反し、何か考え事をしているような鋭さの消えた瞳が私を捉え、そしてすぐに逸らされていった。パトカーの待つ方向へと足を進めた爆豪はそれ以上振り返ることなく静かに車内に乗り込み、ゆっくりと街中へと消えていった。

「さて、私達も帰りましょうか」

「そうだな、あまりここには長居しないほうが良い」

八百万さんと轟のやり取りは、まだ夢の中にいるような非現実的な感覚から現実に引き戻すには十分すぎる内容だった。先程まで飯田くんを〈模写〉していたため風貌は違うとはいっても、今回の戦闘中にはオールマイトやグラントリノにも私達の姿を見られている。学校に知られるのは時間の問題だろう。もちろん、消太さんにも情報が入るに違いない。私は締め付けられるような胸を痛みを誤魔化すように笑顔を作ってみせた。

「私、ちょっと寄っていくところがあるからみんなは先に帰ってて」

私の言葉に皆は一瞬疑問を顔に浮かべてはいたが、それぞれが意味を察したようだ。

「そっか、わかった。本当にありがとうな鏡見。ここまで来てくれて」

「何言ってんの、全部私の意思だから」

切島が差し出した右手を私の右手が優しく包み、ガッシリと握手を交わして言った。今回のことは誰かに言われたから動いたわけではない。すべて私の意思でここに来たのだ。

駅前の混乱状態は落ち着き、ヒーローや警察により日常を取り戻しつつある神野区。長い長い夜のようで、あっという間にまもなく朝を迎える時間だ。

私はみんなと別れ、タクシーに乗り込むと近くの病院へと向かって行った。先程マンダレイから携帯電話にメッセージが残されていたのだ。それは行方不明だったラグドールが病院に運ばれたという内容だった。

「無事でいて……ラグドール……」

私は廃ビルで見たラグドールの姿を思い出し、タクシーの中でぐっと拳を握りしめると祈るようにして呟いていた。



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