Book-long-B

□渾身の一撃
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あれからどのくらいの時間が経っただろうか。それからしばらく緊迫した雰囲気のままオールマイトとオール・フォー・ワンの交戦は続いていた。舞い上がる砂埃と飛び散る瓦礫が辺りを一掃し街を少しずつ破壊していく。建物があったはずのその場所は、もはや荒地と化していた。

中継を繋ぐカメラを揺らすほどの衝撃波を放って戦っているかと思えば何やら言葉を交わしているかのような場面も見受けられたが、そうした戦いにもついに終止符が打たれる時がきたのだった。

オールマイトが振り絞った渾身の一撃がオール・フォー・ワンの頬を捉えたのだ。一瞬映ったその瞬間を目にし、実況中継をしていたアナウンサーも思わず言葉を失っていた。そして画面に釘付けになっていた街の人々そして私達までもがまるでこの世界の時が止まったかのようにシンと静まり返っていた。

相変わらずの衝撃波とともに砂埃が立ち込め、何が起きたのか把握できる状況ではない。オール・フォー・ワンがどうなったのか、オールマイトは無事なのか、そんな様々な不安と疑問が込み上げるなか私達は砂埃が晴れるのをじっと待っていた。

ゆっくりと風が砂埃を攫い、辺りが見渡せるほど視界が晴れていく。その場にいた全員の不安と期待の先に現れたのは左手を掲げ勝利を示すように立つオールマイトの姿だった。

「オールマイトォォォ!!」

街中が涙と歓喜に沸く。オール・フォー・ワンはどうやら気絶をしているようでピクリとも動かずに倒れこんでいる。

『ヴィランは動かず!勝利!オールマイト!勝利の!スタンディングです!』

アナウンサーも興奮を抑えられないようだ。街中には地鳴りのような歓声が溢れ、人々は喜びを露わにしている。そんななか私は誰にも聞こえないくらいに小さく溜息をついた。爆豪を救出できたこと、なんとかみんなが無事でいられたこと、オールマイトがオール・フォー・ワンを制したこと、いろんなことに安堵し思わず漏れてしまった。溢れんばかりの歓声の中で、私の隣では緑谷が呆然と立ち尽くしたまま静かに涙を流していた。

「泣いてるの……?緑谷……」

「……ううん、なんでもない……よかったよ本当に、勝てて……」

私はそんな緑谷の様子を見つめながら、喉まで込み上げた言葉を飲み込んでいた。“秘密って何のこと?”そう聞くことは簡単だ。だが、それを聞くのは今ではないと、なぜかこの時の私はそう思ったのだった。

決着がついたことで中継に釘付けになっていた人々は次第に歩き出し、四方八方が人で埋め尽くされたこの場所は少しばかり混乱状態となっていた。

「こちらでも毛布配布しておりまーす!」
「電車動きません!あちらで介抱施設の案内を行なっています!」
「立ち止まらずゆっくり進んでください!」

整備をしようとプロヒーローや警察が一生懸命に誘導している。その波に飲まれるように私達は足を進めて行った。

「身動きがとれんな……轟くんや八百万くんらと合流したいが……」

「とりあえず動こうぜ。爆豪のことヒーロー達に報告しなきゃいけねーだろ」

困ったように顔をしかめる飯田くんに対し、切島は冷静に言った。轟には駅前にいることを伝えてある。きっとこちらに向かっているはずだ。私達は警察の誘導に従いながらも少しずつ駅前に近づくよう足を進めていった。



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