Book-long-B

□奪還作戦
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ドルルルルッという音とともに私と飯田くんはふくらはぎに意識を集中させ〈エンジン〉をかけた。そして切島は体を〈硬化〉させ、私達は息を合わせると一気に塀を砕いて飛び出していった。

私達が地に足をつける前に轟により氷結で足場が形成されていく。その上を滑るように勢いよく突き進んだ私達は空中に飛び出して一直線に戦場を横断していった。

「爆豪……!!」

私はヴィランからの集中攻撃を無我夢中で避け続けている爆豪の名を呼んだ。これくらいのことしかできないが、一度きりのチャンスに賭けた私は必死だった。

私の呼びかけに視線を上げた爆豪はこちらに気がつき、同時に近くにいたヴィランの視線もこちらに向いた。切島はすかさず左手を差し出し、声を上げた。

「来い!」

その呼びかけへの爆豪の反応は速かった。他のヴィランの誰より早く〈爆破〉を使って宙に上がっていく。

「……バカかよ」

私達の元へたどり着いた爆豪はそう言って切島の手をグッと握りしめた。その瞬間、私と飯田くんは更にスピードを上げるため足のエンジンを強めていく。

「てめェ鏡見か」

飯田くんの姿をした人物が2人、その状況に驚く様子はなく爆豪を呼び捨てた方を私と察するのも流石と言っていいほどに早かった。そして、私を見つめる目はいつもほど鬼のような形相ではなかった。その場の状況や今どう動くことが最善かを察した爆豪は、それだけを言うと前へ視線を向け、その場を離れるために〈爆破〉を使って推進力をあげていった。

その察しの良さと羨ましいほど多様性のある個性は認めよう。だが、〈爆破〉のタイミングをこちらに合わせる気はないらしい。どうも威力のバランスが取れずにいた。私と同じことを感じていた飯田くんは我慢しきれずに爆豪に言った。

「爆豪くん、俺の合図に合わせ爆風で……」

「てめェが俺に合わせろや」

まだ確実に逃げ切れたというわけではないため連携が求められるこの状況で、相変わらず爆豪は自己中心的だった。

「張り合うなこんな時にィ!」

切島が仲裁に入るが意味はない。タイミングを合わせようとしない爆豪に呆れた私と飯田くんは仕方なく爆豪の発する〈爆破〉に合わせてレシプロを調整していくことになった。

「逃すな!遠距離ある奴は!?」
「荼毘に黒霧!両方ダウン!」
「あんたらくっついて!行くわよ!」

地上では隙を突かれて慌てているヴィランの声が聞こえている。全員が一箇所に固まり何やら企みが垣間見えていた。

「何か仕掛けてくる……!」

私は飯田くんを離すまいとガッシリと掴んだまま叫んだ。すると間髪入れずにものすごい勢いで人間大砲のようにヴィランの1人が飛び出してきた。

あのスピードだと追いつかれる、と思った瞬間だった。突然現れた巨人がヴィランの行く手を阻むように立ちはだかった。

「Mt.レディ!」

その巨人とはさっき緑谷が教えてくれたプロヒーローだった。

「救出……優先。行って……!バカガキ……」

そう言って大きな音を立てて地面に倒れこむMt.レディを横目に私たちは更にスピードを上げて前へ前へと進んでいった。立ち止まっていては足手まといになるだけだ。私達は必死に前を向いていった。

いま気がかりなのは轟と八百万さんだ。ヴィラン達の意識がこちらに集中している間に2人は無事に逃げられただろうか。そう考えていると、緑谷は背後を確認して口を開いた。

「もう一回くる……!」

その声に私も視線を向けると、地上では再度ヴィラン達が一箇所に集まろうとしていた。またあの人間大砲のようなものがくると警戒をしてときだった。凄まじいスピードでヴィラン達を蹴散らし現れたのは、職場体験以来の人物だった。

「グラントリノ……!!」

「はよ行かんか!アホゥ!」

職場体験であれほど注意を受けたと言うのに、またこんな形で会うことになるとは思わなかった。だが、そんなことを考える余裕もなく私達はその場から離れていった。まだ安堵はできない状況の中で、とにかくその場から少しでも遠くへ離れることだけを考えて前へ突き進んでいった。




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