Book-long-B

□バクチ
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緑谷は声を押さえたまま爆豪救出に向けた作戦を話し始めた。

「僕のフルカウルと飯田くんのレシプロでまず推進力を上げる。鏡見さんも飯田くんを〈模写〉して馬力を上げて欲しいんだ。そして切島くんの〈硬化〉で壁をブチ抜く。開けた瞬間、すぐさま轟くんの氷結で道を形成して欲しい。なるべく高く跳べるように」

うんうん、と私達は聞き入っていた。今までも緑谷の考える案は予想を超えるものばかりだった。少しでも望みがあるなら賭けたい、そんな気持ちが湧いていく。

「そしたら……切島くんだ。僕や鏡見さんじゃダメだ。轟くんでも飯田くんでも八百万さんでも……入学してから今まで、かっちゃんと対等な関係を築いてきた君の呼びかけなら、きっとかっちゃんは救けられる!」

緑谷は真っ直ぐ切島の目を見て言った。それはそこにいる誰もが納得できる作戦だった。切島でなければ成功しない、その言葉の意味が痛いほどわかる。触れることすら許されない私では力不足であり、同じく幼少期から関係が拗れている緑谷もここでは補佐に回るしかないだろう。緑谷の目は本気だった。爆豪を救けたい気持ちがその表情にはしっかりと現れている。そして何かを決したように小さく呟いた。

「これまでヴィランに散々出し抜かれてきたけど……今、僕らがそれを出来る立場にあるんだ」

私はそんな緑谷の姿を見て口角を上げると、続けて口を開いた。

「手の届かない高さから戦場を横断するってことね。ヴィランのボスはオールマイトを食い止めてる、それはつまり逆もまた然り。行くなら今しかない。爆豪も相手を警戒して距離を取って戦ってるから、タイミングは爆豪とヴィラン達が二歩以上離れた瞬間がベスト」

やる気を漲らせる私たちの様子に少しだけ困惑した表情を見せた八百万さんは判断を委ねるように飯田くんに視線を移して答えを求めた。

「飯田さん……」

「……バクチではあるが、状況を考えれば俺たちへのリスクは少ない。何より成功すれば全てが好転する……やろう」

飯田くんは一瞬考えた様子を見せてはいたが、緑谷の作戦実行に了承した。戦わずに済む点が大きなポイントだったのだろう。そうと決まれば早く行動を起こすに越したことはない。私は飯田くんに触れ〈模写〉をするとすぐさま変貌を遂げた。

「行くよ」

「ああ」

切島を中心に飯田くんと緑谷が体を組み、そして飯田くんの姿に変わった私は飯田くんにしがみつくように腕を飯田くんの腹部に絡ませてガッシリと力を込めた。チャンスは一回限り、失敗は許されない。私たちは小さく深呼吸をすると目を見開いて先を見据えた。



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