Book-long-B
□蘇る記憶
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飯田くんの必死の目は私を我に返させた。懸念していた通り、危うく感情的になり行動に移してしまうところだったが、一度冷静になってみるとまだそこにいる男のことも今の状況についても情報が少なすぎる。無闇に飛び出すのは危険行為なのだ。
そう気付かされたときだった。凄まじい風圧と共に近づく気配を感じ、私達は体を強張らせた。
「全て返してもらうぞ!オール・フォー・ワン!」
それは紛れもなく、オールマイトの声だった。何処からともなく現れた彼は、風圧を広げながら私達の隠れる塀の向こうへ降り立ったようだ。
「オールマイトまで……!」
緑谷の驚いた声をかき消すように強い風が立ち、辺りに散っていた瓦礫が飛んでいく。私は自身を阻む飯田くんの手を離すと、もたれ掛かっていた背中を起き上がらせて体を塀側へ向き直した。気づけば身につけていた安っぽい着物は汚れて着崩れを起こしている。私は何のためらいもなく着物を脱ぎ捨てていった。
「鏡見くん……!冷静になりたまえ……!」
「わかってる。様子を見るだけだから」
飯田くんの発した言葉の意味と私の返事が噛み合っていたかはわからない。そんなことは気にもとめずに私は衣類をおもむろに脱ぎ捨て、ぐしゃぐしゃのまま横に纏めて置いた。そしてずっと動きづらいと思っていた草履も脱ぎ、足袋のまま地に足をつけた。小さな瓦礫がたくさん落ちているため、少しだけ足裏が痛い。それでも、万が一の時に動きが遅れるよりは断然良かった。
着物を脱いだことで上半身がタンクトップ一枚になったが両腕に巻かれた捕縛武器が露出を抑えている。また、下半身も短パンを履いていたためそれなりに動きやすい格好になった。私は飯田くんの制止を振り切り塀に入ったヒビの隙間に顔を近づけ覗き込んだ。
オールマイトがきた今、私たちが出て行くことは逆に足手まといにしかならないのだから戦闘に加わるつもりはもちろんない。ここから逃げるにせよ、爆豪を救出するにせよ状況の把握は必須なのだ。
小さな隙間から見えた先にはオールマイトと向き合って立つマスク姿の男が1人、そして少し離れたところに爆豪とヴィランらしき見知らぬ人物が数名いる。人数を数えながら視線を移して行くと、その中に見覚えのある女の子が視界に入り私は背筋を凍らせた。
「切島……あの子ってもしかして……」
私は血の気も引く思いで切島に言った。顔を蒼白させている私に違和感を感じたのか、切島も別の隙間から覗くように塀に顔を近づけた。
「なんだよ…………えっ……!?」
すると、切島も私と同じように次第に顔を強張らせていった。そこに居たのは以前、林間合宿前にみんなで行った木椰区ショッピングモールの帽子屋にいた女の子だった。たった一度きり、少しだけ会話を交わしただけではあるがその時のことを鮮明に覚えていた。彼女がいま、爆豪と共にいる。
「どうゆう……ことだ……?」
この感情は純粋な疑問からくるものではない。今の状況から自然と察した事柄が脳内でうまく融合せず受け入れられずにいただけだった。同様に隙間から覗き込んでいた轟は、そんな私達に向けて冷静に口を開いた。
「あいつらは全員ヴィランだ。間違いない」
「そんな……」
背中に悪寒が走る。ショッピングモールにいたあの日、ヴィラン連合の主犯格である死柄木も緑谷に接触を図っていた。私は何の警戒もしていなかった自分に怒りを感じると共に、失望していた。
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