Book-long-B

□緊迫
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すると次の瞬間、周辺のビルを吹き飛ばすかのような爆風と共に目の前にあったはずの景色が消えた。

大きな音と共に今までに感じたことのないほどの殺気が辺りを包み込む。いや、これはもはや死期を認識した瞬間に近い感覚だ。込み上げる吐き気と、奪われる体温。血の気が引いていくのがわかった。

運良く塀が盾となり爆風や吹き飛ぶ瓦礫から身を守ることができたが、身を隠している私たちは全員が言葉を失い固まっていた。振り向くことすらできない、あまりに一瞬の出来事。一体何が起きたと言うのか。そして、突然現れたすぐそこにいる人物は何者なのか。

1秒にも満たない時間のなかで現れた人物が放つの気迫は私たちに死を錯覚させていた。何者かはわからない。ヒトかどうかもわからない。一瞬にして多くのヒーローを吹き飛ばし、あたり一面を一掃した。そしていまその人物の気配だけがその場に残っている。高確率でその者の仕業であることは間違いないだろう。

逃げなきゃ、と心が叫んでいる。それでも、わかっているのに恐怖で身体が動かないでいた。声も失ったように、喉を通ろうとはしない。そんな緊迫した空気の中、塀の向こうから聞き覚えのある声が突然に耳に届いた。

「ゲッホ!!くっせぇぇ……んっじゃこりゃあ!!」

バシャバシャと水っぽい音と共に、爆豪の声が聞こえてきた。予想外の状況に思わずドクンと心臓が跳ね上がるのがわかった。

「悪いね、爆豪くん」

聞き覚えのない男の声もする。おそらく塀の向こうにいた人物の声だろう。視界に捉えてはいないが、声の聞こえる位置から言ってその男の前にいま爆豪がいる。全体的な状況はわからないが、なんとなく察することができた。兎にも角にもこんなに危険な事態はないだろう。

私はあのとき林間合宿で届かなかった手をぐっと握りしめた。怖いから動けないなんて言っていられない。目の前に爆豪がいる。殺気を纏った男も、私たちにはまだ気づいていないはずだ。数メートルの距離があるが捕縛武器を使えば届くだろう。

ここで救けにいかなければ何も、誰も助からない。爆豪が無事だったことへの安心感と、高まる感情が焦りを生んでいることに私は気付きはしなかった。とにかく動かなければ、と私が無言で体を少しだけ動かしたときだった。

ガッと飯田くんの大きな手が私を制した。轟、そして緑谷のことも止めている。その目は私達に訴えかけていた。行ってはいけない、と。その表情から読み取れる言葉は声に出さずとも私に届き、同時に冷静に考える時間を与えた。




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