Book-long-B

□崩壊
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狭いコンクリートの隙間で担ぎ上げる様子を心配そうに見つめる八百万さんに代わって私は彼らに忠告をした。

「あまり身を乗り出さないようにね。危ないと思ったらすぐ逃げ出せるように」

幸い変わらず辺りに人の気配はない。物音もない夜が不気味にすら感じていた。すると切島を担いだ飯田くんは待ちきれないと言った様子で言った。

「様子を教えたまえ!切島くんどうなってる!?」

グラグラと不安定な担ぎ方ではあるが、切島は無事塀を超える程度まで高さを保つことが出来たようだ。体を前屈みにし暗視鏡を覗き込んでいる。

「んあー……汚ねぇだけで特に……うおっ!!!!」

「切島!?」

大きくグラつく切島に思わず私たちは動揺した。何かを目にし、驚いたように仰け反り暗視鏡から目を離した。きっとそこに“何か”が見えたに違いない。

「どうした!何見えた!?切島!」

轟は緑谷を担ぎながら言った。ここを去らなければならないほどの“何か”なら一刻を争う。回答を待つ轟を他所に、切島は体勢を整えると緑谷に暗視鏡を手渡した。

「左奥……緑谷左奥見ろ!」

切島から受け取った暗視鏡を恐る恐る覗き込む緑谷は、その先に見た非現実的な景色を目の当たりにして息を飲んだ。

「ウソだろ……!?あんな……無造作に……アレ全部、脳無……!?」

ドゴンッ!!!!

緑谷が暗視鏡を覗き込み、微かに手を震わせたのを視界に捉えたのと同時くらいだろうか。ビルが崩れる音とともに爆風が辺りを包み込んだ。あまりにも突然のことで、担いでいた轟と飯田くんは倒れ切島と緑谷も落ちていった。

窓ガラスの割れる音と、コンクリートが崩れる音が辺りにしばらく響いていた。砂煙が舞い上がって視界がふさがれているが、私たちは体勢を整え意識を状況の把握に切り替えていった。

「ど……どうなってるんだ!?」

「いっててててて……」

飯田くんは頭を抑え、緑谷は腰をさすっている。2人とも体を打ち付けたようではあるが怪我はないようだ。爆風により尻餅をついていた私もすぐさま立ち上がると、辺りに警戒し晴れていく視界に目を凝らしていった。砂煙の先に黒い影が見えたかと思うと、そこにはビルよりも遥かに大きな女性が現れていた。私は思わず驚愕して呟いた。

「あ、あれは……!?」

「Mt.レディだ……!あれはプロヒーローだよ!」

プロヒーローに詳しい緑谷がすぐにヴィランでないことを教えてくれた。それは私にとってはとても大切な情報であり、緑谷の特技が活かされた瞬間だった。

「飯田!わりィ、もっかい担いでくれ!」

切島は半ば無理やり飯田くんによじ登ると、再度塀から体を乗り出し暗視鏡を覗き込んだ。

「ギャングオルカにNo.4のベストジーニストまでいんぞ……!」

暗視鏡の先で一体何が起こっているというのか。八百万さんは我慢しきれず足元に土台を〈創造〉すると塀を越えて体を乗り出した。それを目の当たりにして私はやっと気がついた。最初からそうすればよかったのではないかと心の底では思ったが、私にも足場を作ってくれた彼女を否定することは出来ず、その言葉は私の心に止めることにした。

「虎さんもいますわ……それにあれ!行方不明だったラグドールさんも!」

「ラグドール……!?」

八百万さんの指差す先を見つめると、そこには衣類を身につけずぐったりとした様子で虎に抱きかかえられたラグドールが目に入った。

「おい鏡見!そんな乗り出したら見つかるぞ!」

ドクドクと高鳴る鼓動に正気を見失いかけた私に気づいた切島は、私の手首を掴むと無理やり塀から降ろさせた。切島が触れたことで葉隠さんの個性は使えなくなった。だが、もうそれは必要ない。ヒーローが来てくれたのだから。

「ヒーローは俺たちよりもずっと早く動いていたんだ……!さぁすぐに去ろう。俺たちにもうすべき事はない!」

飯田くんも安心したようにそう言うと、その場から離れるよう促していった。



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