Book-long-B

□暗視鏡
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人が1人、体を横向きにしてやっと通れるくらいの隙間を私たちは並んで進んでいった。コンクリートの壁が背中に擦れるのがわかる。

「狭いですわ……つっかえそう」

八百万さんは私の後ろで小さく言った。彼女は発育が進んでいる。狭いことは確かだが、私にとってはつっかえる気配はなくスルスルと前へ進むことができていた。

「安全を確信出来ない限り動けない……鏡見さんを行かせるわけにはいかないんだ。ここなら人目はないし……あの高さなら中の様子が見れそうだよ!」

緑谷は私より少し先を行っていたが、塀が下がった箇所で足を止めて待っている。私は思わず疑問を口にした。

「この暗さで見えるの?」

時刻は20時を過ぎているのだ。辺りはすっかり暗くなり、街から溢れる光だけが辺りを照らしている状況だ。建物の中が見えるとは到底思えない。

「それなら私、暗視鏡を……」

「いや!八百万。それ俺、持ってきてんだな実は」

〈創造〉で創り出そうとした八百万さんを制すると切島は何やらゴソゴソと探る仕草をして片手に収まる大きさの暗視鏡を取り出した。

「ええすごい!」

「1つしか買えなかったけど、やれる事考えた時に要ると思ってよ」

そう言って電源を入れる切島を私は微笑ましく見つめていた。少し先では緑谷がなぜか興奮している。

「それめっちゃ高いやつじゃない!?僕もコスチューム考えてた時ネットで見たけど確か5万くらいしたような……」

「値段はいんだよ、言うな」

らしくないほど冷静に切島は言った。準備万端な切島に轟も飯田くんも驚いたことだろう。だが、それ以上そのことには触れずに轟は口を開いた。

「よし。じゃあ緑谷と切島が見ろ。俺と飯田で担ごう」

私と八百万さんも登りたいところではあるが、私が葉隠さんを〈模写〉し潜入に備えていることを考えると八百万さんに触れる行為は許されない。つくづく自身の個性の制限に嫌気がさしていた。それでも八百万さんに担いでもらったとして、〈模写〉が八百万さんになってしまっては意味がない。私たちは不安定によじ登り担がれた切島と緑谷を視界に捉えながらも辺りを警戒することに徹していた。



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