Book-long-B

□周辺調査
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会見の様子に見入るように、街中の人々は足を止めて映像に釘付けになっていた。画面にはどこかの記者が映し出され、雄英の危機管理体制について質問をしている。

『雄英高校は今年に入って4回、生徒がヴィランと接触していますが、今回生徒に被害が出るまで各ご家庭にはどのような説明をされていたのか。又、具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください』

それに対し、校長先生はマイクを取るとゆっくりと話し始めた。

『周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討。強い姿勢で生徒の安全を保証する……と説明しておりました』

「は?守れてねーじゃん」
「何言ってんだこいつら」

会見の様子を見ていた街の人が発した言葉に、私たちは戸惑っていた。結果が全て。それは今に始まった事ではない。だが、なぜヒーローが責められるのか。世の中の空気が淀んでいくのを肌で感じた瞬間だった。

「見ていられない……行こう」

「え?見ないの?!ちょっと……!鏡見さん!」

私はこの異常事態から目を背けるように足を進めて行った。後ろから聞こえた緑谷の声を敢えて聞こえないふりをして、その放送が見れない場所まで歩いていく。

納得ができないのだ。確かに、ヴィランに接触を許したこと、生徒に被害が出たこと、爆豪が攫われたこと、すべては猛省すべきことかもしれない。危機管理体制が不十分であったと言わざるを得ない。だが、なぜヒーローが悪者扱いされなければならないのか。そもそもの本質を見失いつつある世の中に私は失望していた。

私のわがままに振り回されながらも、みんなは会見を見ることを諦めて付いてきていた。繁華街を抜け、人気の減った薄暗い路地を進んでいく。デバイスを使い、ヴィランのいる位置に少しずつ近づいていくと1つの建物の前で八百万さんは足を止めた。

「ここが発信機の示す場所ですわ」

「ここがアジト……いかにもだな!」

切島の言葉の通り、その古びた廃ビルのような建物はひっそりと気配を消して佇んでいた。

「わかりません……ただ、私が確認した限りヴィランは丸一日ここから動いていません。ヴィランがいるからといって爆豪さんがいるとは限りません。私たちが今どれだけ、か細い情報でここに立っているか冷静に考えてみてください」

あくまでストッパーに徹するのか、八百万さんは冷静に言った。そして、飯田くんも念を押すように八百万さんに続いた。

「葉隠くんの個性を鏡見くんが〈模写〉しているとはいえ、もともとの個性でスニーク活動に秀でた者はいない。少しでも危険だと判断したらすぐ止めるぞ。友であるからこそ警察への通報も辞さんからな……!」

「ありがとう、飯田くん。できる範囲で出来ること……考えよう」

そう言って緑谷はブツブツと呟きながら考える様子を見せている。ここからは慎重に慎重を重ねる必要がある。私も彼らの言葉を念頭に置いたまま辺りを見渡した。

「とりあえず周辺を調査しよう」

変装をしているとはいえ、あまり目立つ行動は好ましくないだろう。自然を装って建物の周りを歩き、私たちは外観を確認していった。

「電気も点いてねーし、中に人がいる感じはねぇな。木を隠すなら森の中……廃倉庫を装ってるわけだな」

切島は目の前に佇む建物から醸し出される不気味な雰囲気に顔を強張らせて言った。とても静かだ。気配もなければ物音もしない。すると飯田くんは何かを見つけたように一点を見つめ口を開いた。

「正面のドア、下に雑草が茂ってる。他に出入口があるのか?どうにか中の様子を確認出来ないものか……」

「多くはないけど、人通りはあるよ」

緑谷は建物前の通りを歩く人々に警戒しながら言った。酔っ払いが数名、フラフラになりながら歩いている。八百万さんはそれらを軽蔑するようにちらりと見ると、顔をしかめて言った。

「目立つ動きは出来ませんわよ。どうされますの?」

「裏に回ってみよう、どれだけか細くても僕らにはここしか情報がない」

緑谷の言葉に賛成した私たちは建物と塀の隙間を並んで歩き、裏へ向かって行った。




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