Book-long-B

□謝罪会見
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「オッラァ!コッラァ!」

ヤンキーに扮しているのか、緑谷は髭を付け色のついたサングラスを掛けて成りきっている。

「違ぇ!もっと顎をクイクイやんだよ!」

「オッラァ!」

切島が一生懸命指導しているが、頭に角を付けた彼自身が何を目指しているのかが疑問でならない。その横では満足した様子の八百万さんがホステスのような服を身に纏って興奮を露わにしている。

「夜の繁華街!子どもがうろつくと目立ちますものね!」

お嬢様育ちの彼女はきっと初めての体験だったのだろう。興味があったことが実践できてとても嬉しそうだ。私も同じく初めての経験ではあったが、照れくさい気持ちの方が勝っていた。

「なんだか楽しそうだね八百万さん」

「べ……別にそんなことありませんわ!これも作戦のうちですのよ!」

私が悪戯に笑って言うと、図星だったのか八百万さんは少しだけ取り乱して答えた。そんななか長髪のカツラを被りホストの格好で身を固めた轟が口を開いた。

「八百万……〈創造〉でつくればタダだったんじゃねぇか?」

「そそソレはルール違反ですわ!私の個性で好き勝手につくり出してしまうと流通が……そう!国民の1人として……うん、回さねばなりませんもの!経済を!」

轟の身もふたもない的確な指摘に慌てて答える八百万さんだが、全ては単にドンキに入りたかったのだろうと容易く予想が出来た。

「これで街に溶け込めるな!出発だ!気を抜かずに行こう!」

カジノのディーラーのように変身している飯田くんは手をブンブンと振り、みんなを誘導するように言った。それについて行くように歩き始めたとき、背後から声が聞こえて足を止めた。

「お?雄英じゃん!」

お店から離れるなり聞こえてきた声に私たちはギクッと体を固めてしまった。せっかく扮したと言うのにあっという間にバレてしまったというのか、私たちは恐る恐る顔を上げた。だが、それは私たちに投げかけられた言葉ではなかった。

『では、先ほど行われた雄英高校謝罪会見の一部をご覧ください』

ビルの側面に設置された大きな液晶画面を眺めた人々。その視線の先にはニュースが流されていた。

「しょ……!」

消太さんが映し出されている。思わず出てきた言葉を慌てて飲み込むが、そこには校長先生とブラドキング先生、そして消太さんの3名が大量のフラッシュを浴びる様子が映し出されていた。胸騒ぎが増幅する。

『この度、我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした』

そう言って頭を下げる様子に私たちは言葉を失ったまま目を離せずに眺めていた。

「メディア嫌いの相澤先生が……」

緑谷が呟く声が私の耳にしっかりと届いていた。そう、彼はメディアが大嫌いだ。それでもこうして出ているということが、事の重大さを物語っている。ましてや彼は身なりを整えスーツを着ている。ほったらかしの無精髭も剃り、いつもボサボサの髪は後ろに束ねられている。私は目を逸らさずにそれを目に焼き付け、口を紡いだまま掌をぐっと握りしめていた。



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