Book-long-B

□変装
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「着いた!神野区!この街のどこかに奴ら潜んでんのか、人多いな……さァどこだ八百万!」

切島は到着するなり落ち着きなく周りを見渡し走り出した。

「お待ちください!ここからは用心に用心を重ねませんと!私たちヴィランに顔を知られているんですのよ!」

八百万さんに止められた切島は、我に返ったように足を止め固まった。私も軽くため息をつくと呆れたように口を開いた。

「隠密って話だったでしょ。そんな挙動じゃ逆に目立つよ」

「そ……そっか!わりィ!」

切島は小走りに私たちの元へと戻り申し訳なさそうな表情で頭を掻いた。それを見ていた飯田くんは考える素振りを見せながらブツブツと呟いている。

「しかしそれでは偵察もままならんな」

飯田くんの言う通りである。林間合宿で会敵しただけでなく、それ以前に雄英体育祭で全国に顔が知られている以上、偵察をする側の私たちは不利だ。どうしたものかと思考を巡らせていると、何やらソワソワと落ち着きをなくした八百万さんが話を切り出した。

「そこで私、提案がありましてよ!?」

そう言って八百万さんが指差す先には、煌びやかなお店が立ち竦んでいた。“激安の王道ドンキ・オオテ”と書かれたその店構え。私には何の店なのか分からず疑問しか湧かないでいたが、みんなはどこか納得したようにお店の中に入って行った。

「鏡見さん!これなんていかがかしら!」

店内はゴチャゴチャと様々な雑貨や食品が並び、乱雑に商品が積み重なっていた。何でも屋といったところか。初めて入店したことで戸惑っていた私に八百万さんは興奮した様子で駆け寄って来た。

「見つけました!メイド服ですわよ!鏡見さんなら絶対にお似合いだと思いましたの!」

「なになに……?!」

黒と白のヒラヒラとレースがついた服を胸元に押し付けられ戸惑う私を見て轟は冷静に言った。

「なるほど、変装か」

「変装!?わっ」

頭にカチューシャを付けられ訳も分からないまま、八百万さんに試着を強いられた。その隣では、切島や飯田くんもジャケットを羽織ったりサングラスを掛けたりと何やら楽しげに服を選んでいる。

「黒髪が映えてとても似合いますわね!……ですがちょっと夜の繁華街には沿わないかと」

着せ替え人形のように八百万さんの言われるがままに着替えを繰り返した結果、私は八百万さんの慣れた手つきで着物を着付けされ、髪を纏めて“完成”となった。

「すげぇ!スナックのママさん風!」

何やらツノを付けた切島が現れ、私を見るなり楽しげに言った。もちろんここは激安の王道、しっかりとした生地なわけもなく薄っぺらな着物を纏った私は少しだけ顔を赤らめてみんなの着替えが終わるのを待っていた。


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