Book-long-B

□新幹線
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私達は意を決すると、足早に駅へ向かい新幹線に乗り込んだ。緑谷と八百万さんが並んで座り、その向かいに轟と切島が腰掛けた。私と飯田くんは通路を挟んだ隣の座席だ。座るや否や、八百万さんは時計を目にして口を開いた。

「いいですか?発信機の示した座標は神奈川県横浜市神野区。長野からの出発ですので約2時間……10時頃の到着です」

時計は夜の8時前を指している。これから2時間もかかるということで、私達はあらかじめ購入しておいたお弁当を食べ戦に備えることにした。

「あの……この出発とか詳細って皆に伝えてるの?」

緑谷はもぐもぐと口を動かしながら尋ねた。ベットで寝たきりだった彼は、いろいろな情報が欠落しているようだ。

「ああ、言ったら余計止められたけどな」

轟はお弁当を食べながら答え、まだ伝えていないままだった潜入作戦も伝えた。すると切島はおにぎりを食べながら何かを思い出すように続けた。

「あの後、麗日がダメ押しでキチい事言ってくれたぜ」

私の脳裏にもお茶子の言葉がよぎっていった。

“爆豪くん、きっと皆に救けられんの屈辱なんと違うかな……”

そのたった一言が、私たちのしようとしていることが、決して正しいことではないと表しているようで思わず胸が苦しくなった。私が視線を落として唇を噛み締めるのを見逃さなかった轟は、ちらりとこちらを見た後に口を開いた。

「一応聞いとく。俺たちのやろうとしている事は誰からも認められねぇエゴってヤツだ。引き返すならまだ間に合うぞ」

私に言っているのか、みんなに聞いているのか。私はサンドウィッチを咥えて固まったまま、轟を見ることができずにいた。

「迷うくらいならそもそも言わねぇ!あいつァ、ヴィランのいいようにされていいようなタマじゃねぇんだ……!」

切島は迷うことなく言い切った。本当に男らしく友達想いの熱い男だ。それに続いて緑谷も口を開いた。

「僕は……後戻りなんて出来ない」

吹っ切ったような表情でまっすぐと前を見据える緑谷に私は口に含んだものを飲み込むと、背中を押されたように真面目な顔で答えた。

「私も、必ず救けるって決めてここにいる。連れ戻すまで帰らない」

そうか、とみんなの答えを一通り聞いても大した反応は返さなかった轟は、その後も変わらず黙々とお弁当のおかずを口に運んでいった。

理由なんてない。救けるんだと本能が叫んでいる。私はみんなの真剣な表情を見渡し、同じ考えを持っていることがやけに嬉しくなり少しだけ口元を緩ませた。


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