Book-long-B

□答え
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「八百万、考えさせてっつってくれた。どうだろうな」

切島はどこか気まずい空気を打開するかのように明るく照らされた病院内を眺めながら言った。

「まァ、いくら逸っても結局あいつ次第」

轟は変わらず冷静に分析している。期待する気持ちが高ぶって行くが、そうなればなるほどに断られた時の衝撃は強くなることはわかっていた。それでも私は願わずにはいられなかった。

「あ、来た」

私は院内に感じた人影を察知し即座に口にした。光の中から八百万さんが周囲に警戒するようにゆっくりと出てきた。まだ額にはガーゼが当てられている。

「八百万、答え……」

切島も待ちきれない気持ちが先走っている。合流するなりすぐさま返答を求めた。

「私は……」

言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた八百万さんだが、私たちが求めるのと反して遮る声が背後から聞こえてきた。

「待て」

「い……飯田くん!?」

私は予想外すぎた展開に思わず驚いてしまった。声の聞こえた方へ振り返ってみると、飯田くんが拳を握りしめて立っている。

「……何でよりにもよって君たちなんだ……!俺の私的暴走をとがめてくれた……共に特赦を受けたハズの君たち3人が……!何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?あんまりじゃないか……!」

「なんの話してんだよ……」

切島は訳がわからないと言った表情をしているが、私と轟と緑谷だけはそれを理解していた。職場体験での出来事を言っているのだろう。お兄さんの仇としてヒーロー殺しに立ち向かった飯田くんと共に私と轟と緑谷は特赦を受けた。あのとき咎めた側の私達が、今度は危険に攻め込もうとしている。飯田くんが困惑するのもわからなくもない。

「俺たちはまだ保護下にいる。ただでさえ雄英が大変な時だぞ。君らの行動の責任は誰が取るのかわかっているのか!?」

感情が高ぶりつつある飯田くんを宥めるように緑谷は数歩近づくと説得するように口を開いた。

「飯田くん違うんだよ!僕らだってルールを破っていいなんて……」

ゴチッ!!!!

鈍い音が辺りに響き、思わず息を飲んだ。飯田くんが緑谷を殴ったのだ。

「俺だって悔しいさ!心配さ!当然だ!俺は学級委員長だ!クラスメイトを心配するんだ!爆豪くんだけじゃない!君の怪我を見て、床に伏せる兄の姿を重ねた!君たちが暴走した挙句、兄のように取り返しのつかない事態になったら……!僕の心配はどうでもいいって言うのか!僕の気持ちは……どうでもいいって言うのか……!」

止めるつもりで来たのだろうが、きっと飯田くんは察している。もう何を言おうと私達の決意が変わらないことに。それでも黙ってはいられないのだろう。私達は皆それを感じていた。轟は飯田くんが言い切るまで話を聞いた後、話しを始めた。

「飯田。俺たちだって何も正面きってカチ込む気なんざねぇよ。戦闘なしで助け出す」

「ようは隠密活動!それが俺ら卵の出来るルールにギリ触れねぇ戦い方だろ」

切島もそれに続き、飯田くんを安心させるかのように笑顔をみせた。そして一連の流れを見ていた八百万さんも口を開いた。

「私は轟さんと鏡見さんを信頼しています……が!万が一を考え私がストッパーとなれるよう同行するつもりで参りました」

「八百万くん!?」

八百万さんが協力する結果になることは想定外だったのか、飯田くんは思わず驚いて目を大きく見開いていた。

「僕も、自分でもわからないんだ。手が届くと言われて、居ても立っても居られなくなって。救けたいと思っちゃうんだ」

緑谷は手のひらを見つめながら言った。切島の投げかけた言葉に揺さぶられたことは間違いない。でもあれはハッタリなんかじゃない。まだ届く。まだ間に合うと私も本当に信じている。すると飯田くんは諦めたように小さく言った。

「……平行線か……ならば、俺も連れて行け」

「え!?」

飯田くんの目はとても真剣で、冗談を言っている様子は微塵も感じられない。ずっと黙って聞いていた私だが、予想もしていなかった展開に思わず大きな声を出してしまっていた。




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