Book-long-B

□偽善者
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みんなが集まるロビーに着くと、その表情はどれも曇っていた。理由は明らかである。必死の説得に一切意志を曲げる様子のない私達に困惑し、多少なりとも幻滅しているのだろう。

「本当に行くつもりなの?鏡子ちゃん……」

お茶子が最後の確認、とでも言うかのように探るような目でこちらを見つめている。これだけ反対されても押し通しているのだ、呆れられても仕方がない。それでも、私はあえて余裕を見せるように笑顔で言った。

「うん、でも心配しないで。無茶はしないから」

私のそんな説得力のない言葉では、なんの納得感も得られなかったのかもしれない。彼女にいつものような笑顔が浮かぶことはなく、表情は変わらず曇ったままだった。そして言葉を選ぶようにお茶子はゆっくりと口を開いた。

「爆豪くんきっと……皆に救けられるの屈辱なんと違うかな……」

お茶子の最後の駄目押しが重く心に突き刺さる。あっという間に消えてしまった私の作り笑顔は、真顔へと変わっていた。そして、真剣な眼差しでお茶子を見据えて言った。

「そうだとしても私は行きたい。馬鹿だって……偽善だって言われてもいい。爆豪を救って、私達は必ず戻ってくる」

「……そっか」

言葉を失ったように悲しそうな目で私をしばらく見つめた後、お茶子はそれだけを小さく言った。

その後、私と切島と轟の3名は今夜の出発に向けて準備をすると理由をつけ、みんなと別れて早めにホテルへ帰った。あの後に八百万さんのところへお見舞いに行っても、きっとまた同じことの繰り返しだ。八百万さんもおそらく協力することをみんなに止められるだろうが、最終的にすべての結論を出すのは彼女だ。それでどう揺れようと、協力してもらう側の私達には何も言えない。

「消太さん……何で電話、出ないの……」

私は部屋のベットに横になったまま携帯電話を握りしめた。昨日から消太さんからの連絡が途絶えている。マスコミ対応に追われているのだろう。私はいつもとは違うシーツの匂いに落ち着かない時間を過ごしていた。

それからあっという間に数時間が経ち、気づけば静かに陽は落ちていた。私は腕に捕縛武器をまきつけ服を着替えると、自身に気合いを入れるように両手で頬を思い切り叩いた。パンッという音が部屋に響き、痺れるような痛みが頬に残る。

時間だ。私はスニーカーの靴紐をきつく結ぶと、ホテルを後にし病院へ向かって歩いていった。



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