Book-long-B

□正論
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特別広くもない1人部屋の病室にA組の16人が立ち、そのほとんどの視線はベットで横になったままの緑谷へ注がれていた。

「ヤオモモの発信機のヤツもらって、それ辿って……自分らで爆豪の救出に行くってこと!?」

芦戸さんは再度、頭を整理するように言った。みんなの表情を視界に捉えると、どれも困惑しているのがわかる。口を紡いだまま、あまりに無茶で危険なことを企む私達の話に言葉を失っている。

「そうだよ。ちゃんと作戦もある」

私は誰に何を言われても、この決意を変えるつもりはなかった。救えなかった爆豪を必ず連れ戻したい。未だに不甲斐なさを感じている切島を救いたい。そして、全てを解決してマスコミから非難されるであろう消太さんを守りたい。その気持ちに嘘はつけないのだ。

「ふっ……!ふざけるのも大概にしたまえ!」

飯田くんは私達の決心した表情に納得がいっていない様子だ。相変わらず大きな声を出して苛立ったように言った。それを宥めるように冷静な障子は私達の間に入りながら口を開いた。

「待て、落ち着け。切島の“何も出来なかった”悔しさも、轟や鏡見の“眼前で奪われた”悔しさもわかる。俺だって悔しい。だが、これは感情で動いていい話じゃない」

「オールマイトに任せようよ……戦闘許可は解除されてるし。やれることはやったよ」

あの場にいて、ヴィランの強さを目の当たりにした障子だけでなく青山ですら私達を止めようと訴えかけている。みんな正論だ。心の底ではわかっている。でも、この考えを、気持ちを止めることは出来なかった。そんな私にさらに追い討ちをかけるように梅雨ちゃんは冷静に、そしてどこか悲しげに言った。

「皆、爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょう。どれほど正当な感情であろうと、また戦闘を行うと言うのなら……ルールを破ると言うのなら、その行為はヴィランのそれと同じなのよ」

シンと静まり返る病室で、私は強く胸を締め付けられていた。気持ちに揺れが生じたわけではない。それでも、梅雨ちゃんからの言葉は一層私を苦しめるのには十分だった。

すると、沈黙を破るように病室にはノック音が響き、みんなの視線は一斉に音の鳴る方へと集中した。いつの間にか扉の前には白衣を着た男性医師が立っている。

「お話中ごめんね、緑谷くんの診察時間なんだが」

そろそろ出て行ってくれないかな、とでも言いたそうに待ち構えている。話声が大き過ぎたのか、面会時間が長すぎたのか。ただ単に診察の時間を迎えただけかもしれないが、私達にはどこか申し訳なさが込み上げていた。

「い……行こか」

瀬呂は気まずそうに扉へ向かって歩いて行った。話を一旦切り上げ、ぞろぞろとみんなが出ていくなかで切島だけは緑谷の前から離れないでいる。

「八百万には昨日話をした。行くなら即行……今晩だ。重傷のおめーが動けるかは知らねぇ。それでも誘ってんのは、おめーが1番悔しいと思うからだ。今晩、病院前で待つ」

「……いくよ、切島」

みんなが退室し静かになっていく病室で、最後に緑谷へ話す切島に私は言った。人がいなくなると静かになるこの場所では、小声で話していても聞こえてしまうのだ。扉付近では未だに男性医師が立って待っている。病院を抜け出すことを悟られては作戦に支障が出るかもしれない。

「それじゃあ緑谷、またね」

私と切島はそれだけ言うと病室を後にし、ロビーに向かっていくみんなを追って歩いて行った。




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