Book-long-B

□お見舞い
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翌日、私達A組はみんなで近くの果物屋へ向かいお見舞い用に大きめのメロンを買ってから病院へ向かっていった。そういえば昨日は手ぶらだったな、と今更ながらに気づいたがそれは私の胸にそっと留めて置くことにした。

ナースステーションで受付の手続きを行うが、昨日に引き続き葉隠さんと耳郎さんは未だに意識が戻っていないとのことだった。私達はまず容体が安定したという緑谷のお見舞いに向かうこととなった。

「あー緑谷!目ぇ覚めてんじゃん」

病室に一番に足を踏み入れた上鳴は言った。

「え?」

ベットの上で横になる緑谷の様子は予想通り包帯だらけの瀕死状態ではあったものの、驚いた表情でこちらに顔を向けると少しだけ嬉しそうに笑っていた。

「テレビ見たか!?学校いまマスコミやべーぞ」

「春の時の比じゃねー」

上鳴と砂藤が言葉にしたことで、昨日の映像が頭に蘇る。今、雄英はどうなっているのだろう。昨晩電話しても出なかった消太さんは、今どうしているのだろう。私はモヤモヤした気持ちのまま両腕に包帯が巻かれた緑谷を見つめていた。

「メロンあるぞ!皆で買ったんだ!」

峰田くんは空気を変えようと、先ほど買ったメロンを差し出している。すると常闇が後ろから数歩進んで緑谷のベットに近づき、神妙な面持ちのまま口を開いた。

「迷惑かけたな、緑谷……」

ヴィラン襲撃時に〈黒影-ダークシャドウ-〉の制御が効かず暴走してしまったことを未だに反省しているようだ。緑谷はそれを一切気にした様子は見せずに一生懸命口角を上げて強がるように笑って言った。

「ううん、僕の方こそ……A組みんなで来てくれたの?」

病室内が一瞬だけシンと静まり返る。誰も答えようとしないなかで、それを察した飯田くんがゆっくりと話し始めた。

「いや、耳郎くん葉隠くんはヴィランのガスによって未だ意識が戻っていない。そして八百万くんも頭をひどくやられここに入院している。昨日丁度意識が戻ったそうだ。だから来ているのはその3人を除いた……」

「……16人だよ」

お茶子が続き、みんなは静かに視線を落とした。その数字に対する違和感が、最悪の状況を思い出させる。轟は付け加えるように一言を口にした。

「爆豪いねぇからな」

「ちょっ轟……」

芦戸さんが無意味に止めに入るが、それは緑谷もわかっていることであり隠す必要もない事実である。夢であってくれと願っていたのかもしれないが、それが現実であると再認識した緑谷は悔しそうに顔をしかめながら言った。

「オールマイトがさ、言ってたんだ。手の届かない場所には救けに行けないって。だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ。僕は……手の届く場所にいた。必ず救けなきゃいけなかった……!僕の個性はその為の個性……相澤先生の言った通りになった。体……動かなかった……」

緑谷の気持ちがわかり、胸がズキズキと痛む。私が一番手の届く場所にいたのに救けられなかった。誰も責めはしないが、それは変えられない事実なのだ。すると沈む空気が漂うなか切島が飄々とした雰囲気のまま口を開いた。

「じゃあ今度は救けよう」

「「「へ!?」」」

緑谷を含むその場にいた多くの者からの同じ反応に、辺りには静寂が広がった。そのなかで、私と轟だけは切島の発言に驚きもせず、真面目な顔を保ったままでいた。



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