Book-long-B

□メディア
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「鏡子!テレビ見てる!?学校が大変なことになってるよ!」

ホテルに戻るなり明日に備えて体を絞っていた私の部屋に、芦戸さんが慌てた様子で駆け込んできた。

「なに、どうしたの?」

「テレビ見て!早く!」

額から垂れる汗をタオルで拭いながら答える私を、芦戸さんは急かすように部屋に押し込んだ。隅に置かれたテレビの前に半ば無理やりに連れていかれる。私が泊まってから一度も電源を入れられていないそのテレビは、部屋ではそれなりの存在感を持ってはいたが普段からテレビを見ない私の前では無意味なモノでしかなかった。

電源をつけ、チャンネルを回すとそこには雄英の校門前が映し出されていた。

「なに、これ……」

「生徒が攫われたって公表したんだよ!なんか雄英の危機管理体制が脆弱だったって大騒ぎになってる!」

マスコミが押し寄せ、それを宥める先生達の姿がそこにはあった。プレゼント・マイク先生にセメントス先生、ミッドナイト先生も映っている。そこに消太さんの姿はない。今日こちらを出発すると言っていたからまだ雄英に着いていないだけなのかもしれないが、私はどこか胸騒ぎがしていた。

「……連れ戻さなきゃ」

「え?なに?」

ボソリと呟いた私の言葉を聞き返すように尋ねた芦戸さんに、何でもないと作り笑顔で答えるとそれ以上気にする様子もなく芦戸さんは頭を掻きながら言った。

「やばいよコレ……ネットも凄いことになってるし!私達しばらく帰れないよ……!」

お手上げだとでも言うかのように困った表情をする芦戸さんを横目に、私はその中継に見入っていた。揉みくちゃにされたプレゼント・マイク先生の肩に現れた校長先生が、必死で説得を試みている。

『本件に関しましては明日、会見を行う予定です!マスコミの皆様、今日はどうかお引取りを!』

映像が途切れ、画面にはアナウンサーを映し出した。そして話題は次のニュースへと変わっていく。

「会見……」

私はしばらくテレビの画面から目が離せずにいた。これだからメディアは嫌いなのだ。消太さんがそれらすべてを嫌う理由が痛いほどわかる。私も消太さんも、家にテレビは置いていないし携帯電話でインターネットを使うことも殆どしない。消太さんが仕事で使うパソコンでも同じことが言える。メディア全般が私と消太さんにとっては不快の塊だった。

「あ……明日、ヤオモモんとこ行こうね!目、覚ましたみたいだからさ!緑谷も怪我の具合どうかなァ。とりあえず私も部屋戻るね!また明日〜!」

私が放つ殺気に似た空気を読み取ってか、芦戸さんはそそくさと私の部屋を後にした。私はそのままテレビの主電源を落とし、もう二度と付くことのない画面をチラリと見たあと黙々と筋肉トレーニングを再開させたのだった。



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