Book-long-B

□デバイス
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それからしばらくして、私達には八百万さんとの面会時間が与えられた。再度八百万さんの病室を訪れると、そこにはもう警察やオールマイトの姿はなく、元気のない表情の八百万さんだけがベットに座っていた。

「うーっす!」

「お見舞い来たよ、八百万さん」

切島と私は明るさを装って中に入って行くが、轟はいつものように何も言わずに足を踏み入れていく。

「皆さん!!」

私達の姿を目にするなり嬉しそうに笑顔を浮かべる八百万さんへ私達はゆっくりと近づいていった。いつもは優等生らしく凛としているものの、時折隙ができて嬉しさが表情に現れる八百万さんはとても可愛らしい。

「皆さんはお怪我は無かったのですね!」

頭部に包帯を巻いた八百万さんは、私達の元気そうな姿を見て言った。私と切島は無傷だ。しかし、轟は軽傷を負い足と腕に包帯を巻いていた。それは隠しきれない事実であるため、私は轟の腕を指差して言った。

「轟が少しだけ」

「かすり傷だ」

轟も腕に巻かれた包帯を差し出した。実際、彼の治療は終わっており殆どの傷が消えている。あとは自然に治るのを待つだけなのだ。八百万さんの傷も殆どが塞がり、大事を取って明後日の退院予定ではあるものの十分に回復したようだ。それを聞いて私達は安堵した。

みんなと話していると気持ちが少しだけ明るくなれる。なんだかとても安心する。こんな感覚は中学時代には感じられなかった。私はどこかフワフワしたような感情に戸惑いながらも心地よさを感じていた。

だが、八百万さんは次第に顔を曇らせ、思い出したように言った。

「葉隠さんと耳郎さんがまだ意識が戻らないと……そして爆豪さんのことも聞きました。想定していた最悪の状況が現実に起きてしまいました」

悲痛な表情で言う八百万さんに、胸がズキズキと痛む。私は下唇を噛み締め、意を決したように口を開いた。

「……実はそのことで、今日は話があって来たんだ。八百万さんにお願いがあるの」

「な……何ですの?そんな畏まって」

真剣な面持ちで話す私に少しだけ警戒した様子を見せる八百万さんだが、その後はじっと目を見つめ私の言葉を待ってくれていた。

「発信機のデバイスを、私達にも創って欲しい」

「何故それを……!?」

予想外の話だったのか、目を見開き驚いた表情に変わる八百万さんは動揺を隠せてはいなかった。すると、すかさず私の横で黙ってやり取りを見ていた轟は一歩前へ進み出た。

「俺たちは全部知ってる。ヴィランに発信機が付いていることも、そのデバイスをお前が〈創造〉できる事も」

「先程のここでの話、聞いてらしたのですね……」

図星を突かれ、少し困惑した様子を見せる八百万さんは考え込むように視線を落とした。病み上がりの彼女にこんな話をして申し訳ないと思っている。でも、私たちには時間がないのだ。同じ気持ちだったであろう切島も真面目な顔で訴えかけて言った。

「盗み聞きしてごめん!でも、俺らは本当にアイツを助けたいんだよ!だから協力して欲しい……」

病室に少しの沈黙が流れた。彼女が揺れる気持ちも分からなくもない。だが、私達は引き下がるつもりはないのだ。八百万さんは目を瞑り、何かを考える素振りを見せた後ゆっくりと目を開けて話し始めた。

「皆さんの気持ちもわかります。私もとても不甲斐なく思っていますから。でも、これはとても危険なこと……すぐに答えを出せるような話ではありません。少し考える時間をください」

本当は今すぐにでも回答が欲しかった。“創る”と言う回答を。しかし、八百万さんも情に流されず冷静な判断をしたいのだろう。私と切島の期待とは裏腹に彼女は懸命な回答を残していった。

「今すぐ答えを出せとは言わない。でも時間がないのも事実だ。明日みんなにこの話をして、反応がどうであれ俺達は夜にはここを経つ。それまでに答えを固めてくれ」

轟はしつこく迫るわけでもなく、それだけを言うと病室を後にしていった。私達もそれに続くように扉へと足を進め、入り口で再度偽りの笑顔で振り返った。

「ごめんね、まだ病み上がりなのにこんな話して。お大事に、八百万さん」

「いい答え待ってるぜ」

八百万さんからの返答は聞こえなかったが、私と切島は軽く手を振ると八百万さんの病室を後にした。




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