Book-long-@
□目覚め
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「ここは……」
気づくと私はベットの上にいた。腕には点滴が施され、腹部と頭部には包帯が巻かれている感覚があった。
「保健室だよ」
軋むように痛む腹部が体を起こすことを許してはくれない。顔が見えなかったが、保健室で診察をしているリカバリーガールの声だとわかった。
「全く無茶するねぇあんたも。肋骨が複雑骨折してすぐには治癒しない。頭蓋骨にもヒビが入ってる。骨は少しずつ回復していかないとうまく形成出来ないからね」
呆れたような声が聞こえ、ぼーっとしていた頭が少しずつ覚めてきた。あれは全て夢だった、なんて話じゃないことはわかっている。すると、すぐ隣から1人の男性の声が聞こえた。
「イレイザーヘッドは無事だぜ」
少しだけ首を動かし視界に入ったのは、プレゼント・マイク先生だ。以前、消太さんから彼が学生時代の同期だと聞いて心底驚いたのを覚えている。高テンションでおしゃべりな英語教師。口下手な消太さんとは正反対の存在だった。
「本当……ですか……?」
腹部には声を出すのも辛いほどの痛みが走った。ベットの横に立っている点滴は私に少しずつ栄養を与え続けているようだ。ここはとても静かな部屋で、会話以外に何の雑音もない。ゆっくり考える時間が得られる空間だった。
「ああ。腕の骨の粉砕、顔面の複雑骨折。それでも命に別状はないそうだ」
私の目にはまた涙が溜まりつつあった。安心した気持ちと、力になれなかった不甲斐なさで心がぐちゃぐちゃだ。あの時の、ボロボロになった消太さんの姿が頭に浮かぶ。すると、プレゼント・マイク先生は続けて言った。
「だが、目に何かしらの後遺症が残る可能性があるそうだ……顔面を酷くやられたからな」
それを聞いて、一瞬声が出なくなった。後遺症という言葉が頭に何度も響いている。次第に胸が苦しくなり、一刻も早く消太さんの近くへ行かなくてはという感情が急激に湧いてきたのだった。
「お……オイオイ!お前まだ動いていい体じゃねぇだろ!?おとなしく寝てろって!」
私は痛む腹部を抑えながらもベットを起き上がった。大丈夫、と言うのは無理がある。肋骨以外にも身体中が悲鳴をあげていた。
「消太さんは、どこですか」
横に立てかけてあった松葉杖は使わずに、そのままフラフラと歩き始めた。点滴も外れてしまったが、そんなことはどうでもいい。私は足を引きづり、壁にもたれながらも扉へ歩き進んでいった。
「隣の救急治療室だけどよ……行ってもまだ意識は戻ってないぜ」
幸いプレゼント・マイク先生は困惑していたものの私を力ずくで止めるような真似はしなかった。また、机でカルテを作成しているリカバリーガールも、気づかないふりをしてくれているようだ。きっと2人とも私と消太さんの関係を知っているのだろう。
私は痛みをこらえながら、静かに隣の集中治療室へ入って行った。
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