Book-long-@

□怒りの行方
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見えた、見てしまった。信じたくない光景を。血だらけの消太さんを。

走る自分の足ですら遅く感じる。早く、1秒でも早く進まなくては。

私は捕縛武器を数メートル先へ絡めては引き、絡めては引きを繰り返してさらに先へと進んでいった。

怖くて、不安で、思うように手に力が入らない。ああ、また泣いてしまいそうだ。夢であってくれと願いながら私は広場を目指した。行ってはいけないと、心ではわかっていた。消太さんが相手にしていたのは主犯格のヴィラン。私が行ってどうなるものでもない。それでも、行かずにはいられなかった。

「その手を離せヴィラン……!!」

広場に到着すると、そこに広がる光景を目の当たりにしたことで私の感情の全てが怒りと憎悪に変わった。

消太さんの腕は逆方向へ折られ、顔面は傷だらけ。片腕の肘は崩れたかのように表面にヒビが入り筋肉が見えてしまっている。うつ伏せに寝かされ上からは大柄なヴィランが1人、背後から動きを封じているようだ。

「……馬鹿……鏡子……くんな……」

血だらけでボロボロになった消太さんは私が来たことを察知すると、抑えられた頭を力づくで持ち上げ声を出した。だが、そんな姿を平常心で見ていられるほど私は大人ではなかった。

「離せって……言ってるんだよ!!」

私は消太さんの上に跨がっているヴィランに向かって走り出した。もはや恐怖はない。怒りに身を任せ、周りが見えなくなっていた。いや、見えていたとしても避けられなかったのかもしれない。

突如目の前に現れたもう1人のヴィランに、私は一切反応をすることが出来なかった。顔面をはじめとした上半身に数カ所、怪しげな「手」のようなものを身につけている。一瞬見えた表情は不気味な笑みを浮かべ、その後まもなく彼の左手は私の顔を覆い尽くした。そのまま後頭部から床へと叩きつけられ、痛みと衝撃で一瞬目の前が真っ暗になる。

「馬鹿だよおまえ……黙って崩れろ……」

その声はまるで楽しんでいるかのようだった。だが、私の顔が“崩れる”ことはなかった。

「本っ当かっこいいぜ……イレイザーヘッド……」

消太さんはボロボロになりながらも〈抹消〉でヴィランの個性を消していたのだった。私はその隙にヴィランの手から抜け出し、腹部を蹴り飛ばした。意外にも簡単に入った一蹴りだったが、それがさらに相手の怒りの逆鱗に触れることとなったのだった。

「いってぇ……ふざけんなよ……」

先ほどより深い殺意をあらわにしたヴィランは、首元をガリガリと掻きながら情緒が次第に不安定になっていった。

「ああ……ああああああ……むかつく……むかつく……」

指先で掻いた首元はどんどんと赤くただれていく。まるで子供のように感情の起伏が激しいヴィランは、突如手を止め閃いたように言った。

「そうだ……脳無。殺れ……」

そう呟くと、消太さんの上に跨っていたはずの脳無(のうむ)と呼ばれたヴィランは、一瞬にして私の目の前に来ていた。

「やば……!!」

何故かはわからない。それでも直感で感じるものがあった。私はすぐさま先程〈模写〉した切島へと変貌し、体全体を〈硬化〉させた。

ドガンッーーーーー!!!!!!

体が飛ぶ。一瞬のことだったが、脳無に殴られたことは理解できた。私はそのまま壁へと突っ込み、コンクリートで出来た壁は崩れ落ちて行った。



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