Book-long-@

□交戦
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廃墟のような崩れかけたビル。その一角では今もなお戦闘が繰り返されていた。だが、切島と爆豪の応戦によりヴィランが行動不能になる速さも確実に早まっているのは事実だ。

「ハァッ……ハァッ」

弱いとはいえさすがに、何十人ものヴィランを相手にすると息が上がってしまう。それでも、無事ここにいるヴィランはなんとか全て行動不能にすることが出来た。3人で協力したわけではないのだが。

「これで全部か、弱ぇな」

爆豪は最後の一人のヴィランの顔面に〈爆破〉を食らわせると、息を切らせながら言った。タフネスな彼が息を切らしていることに少し驚いたが、私も人のことを言えるほど平常心ではない。

気づいたらここに居たこと、一瞬にして現れた爆豪と切島、漆黒の濃霧。おそらく、出入口付近で私を襲ったあのヴィランの個性なのだろう。となると、もしかしたから他のクラスメイト達もどこかへ飛ばされているかもしれない。私達のように数名で一塊ならまだいいが、峰田くんや梅雨ちゃん、緑谷などが心配だ。

「なぁ鏡見、お前今の戦闘で誰のどんな個性を〈模写〉してるかわかんねぇだろ?」

呼吸を整えていた私に、切島は背後から声をかけた。彼の意外な観察力と図星の事実に驚きを隠せない。確かに私は今、多くのヴィランと戦闘中に接触したことで、いま誰を〈模写〉しているのかわからなくなっていた。

「地味だけどさ、よかったら俺の個性でも〈模写〉しとけよ、無いよりマシだろ!」

よく見ると、彼もだいぶ体が汚れ、ボロボロだ。それでも私へ差し出す手はとても綺麗に見えた。見た目の話じゃない、心の問題だ。横で見ないフリをしている爆豪とはわけが違う。私はもちろん、にこりと笑って手を取った。

これが消太さんの言っていた『協調性』。助け合い、協力し合って乗り越える“Plus ultra-更に向こうへ-”だ。

私は切島の〈硬化〉を写し取ると、捕縛武器を腕に巻き直しながらヒビの入った窓ガラスのもとへ向かった。爆豪と切島がここはどこなのか、これからどこへ行くのか言い合いを始めているようだ。

その会話を無視し外を眺めると、目に映った光景に体が固まり何かに殴られたような衝撃が体に走った。

「……ハァッ……ハァッ……」

疲労からくるものではない呼吸の乱れが生じる。体が熱くなり、足がガクガクと震え始めた。

「おい鏡見……どうした?」

過呼吸になりそうな深く短い呼吸に切島が気づき声をかける。だが、もはや私にその声は届いていなかった。

次の瞬間、私は躊躇することなく窓から飛び、捕縛武器を使って一気に地上まで降り立った。疲れなんて感じる隙間はなかった。走る足は止まらない。

遠くでボロボロになった消太さんが、見えてしまったのだから。




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