Book-long-@

□奇襲
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私達を襲った悲劇。
死を間近に感じるほどの恐怖。
それを経験するには、まだ早すぎた。

空間を飲み込むような殺気と、圧倒的恐怖を感じさせるヴィランの大群。私たちは震える足に鞭を打つしかない。

「先生は一人で戦うつもりなの?!あの数じゃいくら個性を消すっていっても……」

お節介やきの緑谷は足を止めて私に問うが、私にはその時間すら惜しかった。

「いいから緑谷!早く外へ!」

最後尾になった緑谷を前へ進むよう促す。大丈夫、消太さんは強い。小さい頃から消太さんを見てきたが、負けたところを見たことがない。彼は〈抹消〉だけでなく、肉弾戦も得意なのだ。とはいえ、万能というわけではなくやはり“弱点”はあった。

逃げるべき出口まではまだ距離があるが、幸いヴィランとの距離はそれより更に遠かった。ギリギリまで私は消太さんの“弱点”をフォローしなければ。

私は出口へ向かうみんなを目で追った後、既に〈模写〉していた“相澤 消太”へと変貌した。そして肉弾戦を行う彼の瞬きの瞬間を補うように〈抹消〉をし続けた。

瞬きをすると効果が溶けてしまう〈抹消〉は、タイミングが悪いと相手の個性をそのまま受け入れる結果となる。それに彼はドライアイだ。私は群がるヴィラン、そしてその後方で怪しげに様子を伺っている3名のヴィランの存在を満遍なく見続け、彼に瞬きの余裕を与えていた。

だが、それでも二重の〈抹消〉をすり抜ける輩が出てしまった。それが私の大失態であり、後に後悔してもしきれない出来事の始まりとなる。

「させませんよ」

背後から聞こえた不気味な声。たまたま私と消太さんの瞬きが重なった瞬間に隙をついて〈ワープ〉したのだろう。背後にいたのは蒸気のように揺らめく漆黒の霧。一番厄介そうなやつを逃してしまった。

「私の役目はこれ」

そう言ってここUSJに現れた時と同じような霧があっという間に私を包み込んだ。あまりに一瞬のことで、私の〈抹消〉は間に合わず漆黒の空間の中へ飲み込まれてしまった。

「鏡見さん……!!」

視界が消える瞬間、遠くで13号先生の声が聞こえた。

闇の空間にいる時間はあまりにも短かった。気づくと私は見知らぬ場所にいた。崩壊したビルの中のような、瓦礫だらけの部屋だ。

「おお、きたきた」

いろいろなことが一度に起きすぎて頭が追いつかない。だが、そんなことは言っていられなかった。ここがどこかはわからない、それでも目の前にいる大人達がヴィランであることは一目瞭然だ。私は尻餅をついていた自身の体を起こし、垂れた捕縛武器に手をやった。

「お前達の目的はなんだ」

私は刃物を持った目の前のヴィランを睨みながら、隙を作らないよう構えていた。みんなから離れてしまったことで多少の不安を感じ始めている。そしてここがどこなのか、みんなは無事なのか、この状況をどう乗り越えるか。整理する時間が欲しかった。

もちろん、答えが返ってくることはなかった。ヴィラン達はニヤニヤと怪しげに笑いながらジリジリと近づいてくる。私は覚悟を決めると捕縛武器を握り閉めてヴィランに向かって走り出した。



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